最新記事

欧州

米国との貿易戦争回避に腐心のドイツ 黒字達成はEU内紛呼ぶ両刃の剣

2018年5月16日(水)08時06分

こうした立場の違いはEU諸国を分断し、トランプ大統領と交渉するEUの立場を弱めかねない。そうなれば、米国企業の競争力をグローバル規模で高めようとするトランプ氏の術中にはまることになる。

ドイツのアルトマイヤー経済相は2日、フランスと共通の立場を見出すことと、米国に対する提案を策定することは、「同じように難しい」と述べた。

これまでのところ、EUは「米国政府はEUを鉄鋼・アルミ関税の対象から恒久的に除外すべき」という立場をとっており、ドイツとフランスの立場の違いはその背後に隠されている。

だが、6月1日の期限が近づく中、EU各国の通商担当大臣は早急に互いの立場の違いを解消し、米政権との交渉に向けて、マルムストローム欧州委員(貿易担当)に明確な権限を与えなければならない。

自動車産業に危機感

ドイツの自動車メーカー各社は、「やられたらやり返す」方式で報復的な制裁関税がエスカレートすれば、次に打撃が及ぶのは自動車業界だと危惧しており、貿易戦争で被る影響を緩和しようと試みている。

BMWは米国で生産するオフロード車「X3」の中国向け輸出をひっそりと中止し、中国内で同モデルを生産できるよう、瀋陽の自社工場の設備を入れ替えた。このモデルは現在、南アフリカのロスリン工場でも生産されている。

だが、BMWのペーター・シュワルツェンバウアー取締役は、ある工場から別の工場に生産拠点を移すにはコストがかかり、その計画・実施に数カ月を要すため、長期的視点で進める必要があると語る。

「スパータンバーグ(米サウスカロライナ州)の工場やメキシコの工場のように、20─30年程度の視野に立った意志決定が必要だ」とシュワルツェンバウアー取締役は3月、ロイターに語った。

「(トランプ大統領の)ツイッター投稿のたびに戦略を変えなければならないとすれば、正気ではいられない」と彼は付け加えた。

欧州と米国の双方から自動車産業を巡る対立をあおる動きがみられた。

2017年1月、大統領就任直前のトランプ氏は、ニューヨーク市街で見られる高級車にメルセデス・ベンツが多いと不満を漏らし、米国に輸入される自動車には35%の国境税を課すと警告した。

これに対しドイツのガブリエル経済相(当時)は、「米国がもっといいクルマを作るべきだ」と応じた。

ガブリエル氏の発言は、自国から輸出される製品の品質の高さ、そして国際社会からの敬意と認知を再び獲得するに至った戦後の成功についてドイツ人が感じているプライドを反映している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米議会の対外支援法案可決、台湾総統が歓迎 中国反発

ワールド

ミャンマー反政府勢力、タイ国境の町から撤退 国軍が

ビジネス

インタビュー:円安の影響見極める局面、160円方向

ビジネス

中国ファーウェイ、自動運転ソフトの新ブランド発表
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中