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本業なし非常勤講師の急増で、日本の大学が「崩壊」する

2018年4月11日(水)16時30分
舞田敏彦(教育社会学者)

また、状況がどれほど酷いかは専攻によって異なっている。10の専攻について、本務教員と専業非常勤講師の割合の変化が分かる図を作ってみた。横軸に前者、縦軸に後者の割合をとった座標上に1989年と2016年のドットを配置し、線でつないだグラフだ。矢印の末尾は1989年、先端は2016年の位置を表す。

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全ての専攻が右下から左上に動いており、専攻を問わず本務教員率の減少、専業非常勤講師率の増加が進んでいることがわかる。

こうした変化が最も顕著なのが、赤色の人文科学系だ。平成の時代にかけて、本務教員の比率は51.9%から31.9%に減り、代わって専業非常勤講師の比率が21.6%から57.7%に増えている。この専攻では、教壇に立つ教員の半分以上が、不安定な生活にあえぐ本業なしの非常勤講師だ。

図の斜線は均等線で、この線よりも上にある場合、本務教員より専業非常勤講師が多いことを意味する。人文科学系と芸術系はこのラインを越えてしまっている。筆者が出た教育系はあとわずかだ。今後、この傾向はますます進行するだろう。

■学生:「先生、質問があるのですが、後で研究室に行っていいですか」
■講師:「私は非常勤なので、研究室はない」
■学生:「では、ここで聞いていいですか」
■講師:「時間がない。これから別の大学に移動する」

これから先、各地の大学でこういうやり取りが交わされる頻度が多くなるだろう。学生にすれば、何度もこのような拒絶反応を示されたら、勉学の意欲も萎えてくる。

専業非常勤講師の側はと言うと、待遇の悪さに不満を高じさせ、投げやりな態度で授業を行っている者もいる。非常勤講師組合のアンケートの自由記述をみると、「専任との給与差を考慮して、質の低い授業を提供すべきと考えてしまう」「もらえる分だけしか働きたくない」といった記述が多々みられる(首都圏大学非常勤講師組合『大学非常勤講師の実態と声2007』)。

多くの授業を専業非常勤講師に外注している大学でこうした講師が増えているとしたら、空恐ろしい思いがする。まさに「大学崩壊」だ。

大学の学士課程教育の質的転換が叫ばれているが、<図1>のような「非常勤化」現象がそれを阻んでいる。職なし非常勤講師(バイト教員)が全体の半分、7~8割を占めるような大学で「学士課程教育の質的転換」ができるかどうかは疑問だ。人件費の抑制も度が過ぎると、大学教育の根幹を揺るがすことになる。

<資料:文科省『学校教員統計』

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