最新記事

一帯一路

インドを捨てて中国に近づくモルディブの政治危機

2018年4月4日(水)15時50分
ロバート・マニング(大西洋協議会上級研究員)、バーラト・ゴバラスワミー(大西洋協議会南アジアセンター所長)

昨年12月にFTAに署名したモルディブのヤミーン大統領(左)と習近平国家主席 Fred Dufour/REUTERS

<モルディブのヤミーン大統領が推し進める親中路線で、「負債トラップ」にはまったスリランカの二の舞に?>

インド洋に浮かぶ美しい島国モルディブはインドにとって長年、南アジア戦略の要所だった。1965年にイギリス保護領から独立したモルディブを、インドは政治経済の両面で手厚く支援してきた。

だが近年、両国の長年の絆は外的要因によって激しく揺さぶられている。新シルクロード経済圏構想「一帯一路」を掲げる中国がスリランカやパキスタンと同様にモルディブにもカネをばらまき、インドのお膝元であるインド洋一帯で権益拡大を狙っているためだ。

驚いたことに中国は、12年までモルディブに大使館を置いてさえいなかった。だが今やこの小さな島国には中国人観光客が押し寄せ、中国からの出資が殺到。8億3000万ドルをかけた国際空港の拡張工事も中国主導で進んでいる。

中国への急接近を主導するヤミーン大統領に対して、従来型の親インド路線を掲げる野党勢力は批判を強めている。野党陣営によればモルディブの中国への借款は対外債務の約7割を占め、年間返済額は国家予算のおよそ1割に当たる年間9200万ドルに上るという。

国家の命運を中国に握られた状況を、中国の「負債トラップ」にはまったスリランカの二の舞いとする声も上がっている。

スリランカは天然資源と引き換えに中国から巨額のインフラ融資を得ていたが、債務が膨れ上がり、中国の援助で建設された港湾の運営権を中国に差し出す羽目になった。中国当局は内政干渉を一貫して否定しているが、中国の影響が強い他の多くの小国と同じく、モルディブも国家主権を中国に明け渡す瀬戸際にあるように見える。

強硬な政治手法に反発も

一帯一路プロジェクトは往々にして、経済的な動機以上に地理的戦略に基づいて展開されている。しかも、期待されたような成果が出ないケースも多い。

スリランカでは中国の融資で建設した国際空港の利用者がほとんどおらず、無用の長物と化している。中国が軍事使用はしないとの触れ込みでパキスタンやスリランカ、モルディブで進めている港湾開発についても、真の狙いはインド洋沿岸に軍事拠点を確保し、海洋覇権を手に入れることではないと言い切るのは難しい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中