最新記事

香港

香港民主化を率いる若きリーダーの終わりなき闘い

2018年3月10日(土)15時30分
クリスティーナ・チャオ

「雨傘革命」の占拠が終わっても、公正な選挙を求める闘いを続ける決意の黄(当時17歳) Lam Yik Fei-Bloomberg/GETTY IMAGES

<ノーベル平和賞候補に推薦された「雨傘革命」のリーダー、ジョシュア・ウォンは、今も自由を守る闘いの先頭に立ち続ける>

僕がノーベル賞候補に?

インターネットでニュースを見ていた黄之鋒(ジョシュア・ウォン)はわが目を疑った。もっともニュースに取り上げられるのは慣れっこだ。何しろ彼は2014年に香港で起きた民主化運動「雨傘革命」の発起人の1人。当時はまだ17歳だった。

共和党のマルコ・ルビオ上院議員ら超党派の米議員団が2月初め、21歳になった黄と彼の同志をノーベル平和賞の候補に推薦した。長年イギリスの統治下で自由と繁栄を享受し、今は中国の特別行政区となった香港。その香港の自由を守ろうとした黄らの非暴力の運動を、今こそ再評価すべきだというのだ。

1997年にイギリスが中国に香港を返還したとき、中国は本土と異なる政治・経済制度を今後50年間維持し、高度な自治を認めると約束した。いわゆる「1国2制度」である。

このとき普通選挙の実施も約束されたが、20年たった今も香港の有権者は形ばかりの民主主義の下に置かれ、中国共産党のお墨付きを得た候補者の中から投票先を選ぶしかない。

「1国2制度というより、1国1.5制度だ」と、黄は言う。「その0.5もどんどん縮小し、完全に中国の支配下に置かれようとしている」

14年秋、何万もの人々が民主的な選挙の実施を求めて香港中心部の主要な道路に居座った。参加者の多くが警察の催涙スプレーを避けるために雨傘を持ったことから、この運動は雨傘革命と呼ばれるようになった。79日間続いた占拠は、同年12月11日、香港警察の暴力的な弾圧で幕を閉じた。

その後も黄は、「徐々に強まる中国共産党の締め付け」から香港の伝統的な自由を守るために闘い続けている。現在は民主派政党デモシストの書記長として、2047年以降の香港の自治の在り方を決める住民投票の実施を呼び掛けている。47年は、返還時の中英共同宣言と香港基本法で約束された50年間の「1国2制度」が期限を迎える年だ。

「デモシストは暴力ではなく、抵抗によって民主化を勝ち取ろうと市民に呼び掛けている。僕らは独立を求めているわけではなく、香港の生活スタイルと政治制度を自分たちで決めたいだけだ」。黄は本誌にそう語った。

中国側は推薦に猛反発

雨傘革命後、黄ら指導者は逮捕され、1審で執行猶予付きの判決を言い渡された。だが当局側が控訴し、2審では6~8カ月の実刑判決が下された。1審よりもはるかに厳しい量刑に批判の声が広がるなか、香港終審法院(最高裁)は2月6日、2審判決を破棄。保釈中だった黄らは晴れて自由の身になった。

終審法院が判断を示したのは、米議員団が黄らをノーベル平和賞候補に推薦したというニュースが流れた数日後だ。候補になったことで「香港の民主化運動が今も続いていることを世界の人々に知ってもらえる」と、黄は語る。「占拠から4年後の今も僕らは諦めていない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル155円台へ上昇、34年ぶり高値を更新=外為市

ビジネス

エアバスに偏らず機材調達、ボーイングとの関係変わら

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想上回り3カ月連続改善 

ワールド

イラン大統領、16年ぶりにスリランカ訪問 「関係強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中