最新記事

韓国人の本音

韓国の一般市民はどう思ってる? 平昌五輪「南北和解」の本音

2018年2月20日(火)18時55分
前川祐補(本誌編集部、ソウル)、朴辰娥(ソウル)

2月9日、平昌五輪の開会式を見守る韓国の文在寅夫妻(前列)と北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長(後列左)、金与正(後列右) Yonhap via REUTERS

<平昌五輪で北朝鮮との友好の機運が高まっているが、分断から70年を経た韓国内には「南南分断」という障害も存在する。外国人には分かりにくい、韓国人の真意を現地で聞いた>

ピョンチャン(平昌)冬季オリンピック開幕直後の2月11日、パク・ミンキュ(36)は韓国東南部の浦項(ポハン)市から北に約200キロ離れた五輪会場の江陵(カンヌン)市に妻と2人の子供を連れてやって来た。目的は一生に一度巡り合えるかどうかの世界的アスリートの祭典を、4歳と9カ月の子供に体感させること。五輪に合わせて行われる北朝鮮と韓国の南北文化交流イベントには正直、それほど期待していなかった。

江陵市では、韓国と北朝鮮の選手が伝統武術テコンドーの演技を合同で披露した。同じ民族が行う同じ武道ながら、パクの目には南北の違いがはっきり見て取れたという。

韓国選手の技量は素晴らしく、回し跳び蹴りや側面蹴りが印象的だった。対する北朝鮮の選手は力強いという印象だ。韓国では「板割り」で薄い板を使うことが多いが、北朝鮮の選手は6〜7センチの板の後に10センチの板に挑戦。最初こそ失敗したが、2度目に成功した。

韓国人の中には北朝鮮に関心がありながら、人前でその思いを語ることをためらう人も少なくない。実際、韓国には北朝鮮国籍の人と会ったり、話したりすることを禁じる法律がある。パクも北朝鮮に関する政治的な質問では答えをはぐらかしたが、北朝鮮テコンドー選手が10センチの板を割った演技には、「あれは良かった」と感じ入っていた。

北朝鮮は平昌五輪に選手団だけでなく、金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長を団長とする総勢280人の代表団を派遣。女子アイスホッケー会場で南北合同チームを「美女軍団」が派手に応援した。北朝鮮の五輪外交攻勢はこれにとどまらず、同行した金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹の与正(ヨジョン)が特使として、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と会談。南北首脳会談のための訪朝を促した。

核とミサイル開発で世界に脅威を与える北朝鮮と目の前で対峙しながら、これまで韓国はアメリカや中国、日本のはざまで外交の主導権を握ることができなかった。その韓国が五輪という平和の祭典を利用して、一気に交渉の主導権を握ったようにも見える。

頓挫していた南北対話の再開を公約に掲げた文が17年の大統領選で当選したのは、韓国人の間に少なからず北朝鮮との関係改善を望む気持ちがあるからだ。一方で、韓国の人々が分断されて70年もたつ北朝鮮の人々と簡単に抱擁できるわけがない、とも思える。

当の韓国人は本音ではどう考えているのだろうか。五輪をめぐって融和ムードが高まったかと思えば、女子アイスホッケーで南北合同チームが結成されると韓国内では賛否が真っ二つに分かれた。そんな姿を見ると、南北問題における韓国人の真意はどこにあるのか、ますます分かりにくくなる。

180227cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版2月20日発売号(2018年2月27日号)は「韓国人の本音」特集。平昌五輪を舞台に北朝鮮が「融和外交」攻勢を仕掛けているが、南北融和と統一を当の韓国人はどう考えているのか。この記事は特集からの抜粋。記事の完全版は本誌をお買い求めください>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏貿易黒字、2月は前月の2倍に拡大 輸出が回

ビジネス

UBS、主要2部門の四半期純金利収入見通し引き上げ

ビジネス

英賃金上昇率の鈍化続く、12─2月は前年比6.0%

ビジネス

日産、EV生産にギガキャスト27年度導入 銅不要モ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 5

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 6

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 7

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中