最新記事

中央アジア

旧ソ連圏でロシア文字が衰退 若者のSNS人気が致命傷?

2017年7月31日(月)10時58分
楊海英(本誌コラムニスト)

空港案内でロシア語、英語と並ぶカザフ語(一番上)もローマ字化する Shamil Zhumatov-REUTERS

<20世紀にトルコ系民族を東西に引き裂いたソ連化のくびき。カザフ語のローマ字化で進むユーラシアのロシア離れ>

中央アジアの大国カザフスタンはカザフ語のロシア文字表記をやめて、欧米で幅広く用いられるローマ字表記に移行を始めた。この動きは、ロシア文字で自国語を表記してきた旧ソ連諸国から注目されている。

早くも06年に「ローマ字は情報通信の世界を席巻している」と述べていたカザフスタンのナザルバエフ大統領は、今年月に国営メディアを通して論文を発表。25年にローマ字に完全移行するスケジュールまで示した。

カザフ人はユーラシアに広がるトルコ系諸民族の一員だ。イスラム教を信奉するこうした諸民族は、古くは自分たちのトルコ系諸言語をアラビア文字で表記してきた。当時はアラビア文字とトルコ語の知識が少しあれば、西はオスマン帝国からクリミア半島のタタール人、そして東のウイグル人やカザフ人に至るまで、ユーラシアを横断して意思疎通ができた。

そのため20世紀初頭には、「トルコ系諸民族は一つの家族」との広く緩やかな連帯意識が形成される一方、列強によるユーラシア分割が進んでいた。22年にはオスマン帝国崩壊と相前後してソ連が誕生。西のトルコ人はアラビア文字からローマ字に移行して近代化を進める一方、東のカザフ人は帝政ロシアの支配から「解放」されて「ソ連人民」となった。

【参考記事】ソ連支配の記憶を消したいポーランド、「報い」を誓うロシア

「日本のスパイ」と因縁

40年にカザフ・ソビエト社会主義共和国は「晴れてロシア文字に基づく新しいアルファベットへの移行」を決定した、とソ連共産党機関紙のプラウダは当時報じている。「教育人民委員部は小学校と非識字者教育のために31の教科書を作成。科学アカデミーのカザフ支部はカザフ語のロシア文字表記辞典を編纂した」。こうして41年から公的機関や新聞・雑誌はカザフ語をロシア文字で表記することとなった。

「ソ連人民」を創出しようと、ソ連がロシア文字を強制した民族はカザフ人だけではない。モンゴル高原の北に連なるバイカル湖周辺からシベリア南部にかけては、太古よりモンゴル人の一集団、ブリャート族が暮らしてきた。ブリャート族の土地は17世紀から帝政ロシアに支配され、ソ連成立の翌年にはブリャート・モンゴル・ソビエト社会主義自治共和国が産声を上げた。

ただ新生共和国の教育行政を担ったブリャート人バザル・バラーディンは、ユーラシアに広がるモンゴル民族との文化的・言語的一体性を唱え、同民族同士の交流促進を図った。それまでロシア文字やモンゴル文字、チベット文字などを部族ごとに用い、表記法を統一してこなかったモンゴル民族が共用できるローマ字化を提案した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

東京ガス、25年3月期は減益予想 純利益は半減に 

ワールド

「全インドネシア人のため闘う」、プラボウォ次期大統

ビジネス

中国市場、顧客需要などに対応できなければ地位維持は

ビジネス

IMF借款、上乗せ金利が中低所得国に重圧 債務危機
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中