最新記事

日米首脳会談

トランプとの会談は日ロ首脳会談の二の舞にするな

2017年2月9日(木)17時19分
エミリー・タムキン

先月の会談はうまくいったが今回は? HANDOUT/REUTERS

<トランプ米大統領を喜ばせるために、日本の安倍首相はインフラ投資などでアメリカに70万人の雇用を創出する「日米成長雇用イニシアチブ」を持参するが、これは昨年末来日したプーチン露大統領に経済協力を約束させられただけで終わった日ロ首脳会談を思わせる>

米大統領選後、各国首脳の先陣を切って真っ先にドナルド・トランプに会いに行った日本の安倍晋三首相。10日にホワイトハウスを訪問し、トランプ大統領と初の日米首脳会談を行う。その後は大統領専用機でフロリダ州にあるトランプ所有のリゾートクラブ「マールアラーゴ」に移動、共に週末を過ごす予定だ。

最初の会談では、安倍はただ、選挙戦中に日本叩きのレトリックを連発したトランプに同盟関係を認めさせればよかったと、専門家は言う。2回目の会談はそう単純ではない。貿易摩擦の再燃を防ぐと共に、日本は今もアメリカの安全保障の傘に守られているという保証を取り付ける必要がある。

【参考記事】安倍トランプ会談、トランプは本当に「信頼できる指導者」か

「今回の会談は(前回とは)違ったものになるだろう」と、仏シンクタンク・国際関係研究所(IFRI)アジア研究センターのセリーヌ・パジョンはみる。「就任後にトランプが連発した大統領令で、選挙戦中の発言は本気の発言で、実行に移すつもりだと分かったからだ」

最近も続く日本批判

安倍との最初の会談でも、トランプはTPPから離脱すると言ったが、まだ翻意の可能性はあると思われた。とんでもない。トランプは就任直後にTPPを「永久離脱」してしまった。トランプは30年前から日本はアメリカにたかっていると言ってきたが、就任後は日本が円安誘導によって「グローバルなたかり屋」になっているとまで言い出した。

TPP残留を説得できなかった安倍は、今回の会談で2国間貿易の重要性をアピールするとみられ、通商交渉に向けた地ならしをする可能性もある。日本にとって、アメリカは中国に次ぐ第2の貿易相手国であり、特に自動車とエレクトロニクス製品の重要な輸出市場だ。

「日本にとってトランプのこれまでの動きは必ずしも歓迎すべきものではなかったが、あきらめずに働きかけて、日米関係の重要性をトランプに理解させるべきだ」と、パジョンは言う。

安倍はトランプをなだめるために具体的な経済協力プランを提示するだろう。日米の連携によるインフラ投資などでアメリカに70万人の雇用を創出する5本柱の計画「日米成長雇用イニシアチブ」の準備を進めてきたと、日本の政府関係者は明かす。

この戦略は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対する安倍のアプローチを連想させる。昨年12月にプーチンが訪日した際、安倍は官民合計80件の経済協力案件を提示、ロシアに3000億円規模の投融資を行うと約束した。この提案は、北方領土問題でプーチンから譲歩を引き出すと共に、対中包囲網にロシアを引き込むための「ニンジン」だったが、安倍の思惑は見事にはずれた。

【参考記事】プーチンの思うつぼ? 北方領土「最終決着」の落とし穴

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NZ中銀、自己資本規制見直しの必要性否定 競争当局

ワールド

ガザ戦闘、人道状況に「著しい悪影響」 米国務省が人

ワールド

ロシアがウクライナに無人機攻撃、南部オデーサで7人

ビジネス

中国の研究機関、エヌビディアの先端半導体調達 米の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中