最新記事

温暖化対策

温暖化対策に希望! 二酸化炭素を岩に変えて閉じ込める

2016年6月12日(日)10時20分
山路達也

Kevin Krajick-Lamont-Doherty Earth Observatory

<英サウサンプトン大学、米コロンビア大学などの共同研究チームは、アイスランドの地熱発電所で、発電所から出る二酸化炭素を玄武岩に注入し、「岩」にしてしまうことに成功している。>

 二酸化炭素を始めとする温暖化ガスの排出を抑えようとさまざまな技術が開発されている。その1つが、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)と呼ばれる炭素貯留技術だ。CCSは、火力発電所や工場から排出される二酸化炭素を回収、これを地中の帯水層や海底に注入して貯蔵してしまうというもの。

 一部、石油やガスの採掘にCCSは利用されているが、二酸化炭素を地層に注入して圧力を高め、石油や天然ガスの産出を増やそうというわけだから、それを温暖化対策というのも議論を呼ぶところではある。CCS技術の多くはまだ研究段階であり、地震などで注入した二酸化炭素が漏れてくる恐れなどが指摘されている。

 英サウサンプトン大学、米コロンビア大学などの共同研究チームの研究は、CCSをめぐる状況に一石を投じることになるかもしれない。

 研究チームは、2012年からアイスランドのHellisheidi地熱発電所で、Carbfixプロジェクトを行っている。Carbfixの目的は、発電所から出る二酸化炭素を「岩」にしてしまうこと。地熱発電所からは、二酸化炭素や硫化水素を含む火山性のガスが排出される。このガスと汲み上げた水を混ぜて玄武岩に注入し、自然に起こる化学反応によって二酸化炭素を固体にしてしまおうというのである。

 この化学反応がどのくらいのスピードで起こるのかは、誰も知らなかった。科学者によっては数百年から数千年かかると見積もる人もいたし、Carbfixの研究者も8〜12年ほどかかると予想していた。

 2012年から2013年にかけ、研究チームは250トンの水と二酸化炭素、硫化水素の混合液を玄武岩に注入して経過を観察。その結果、注入された二酸化炭素の95%は2年以内に固体化されていることがわかった。予想よりも圧倒的に短期間で二酸化炭素の固定は進んでいたのである。

 従来の二酸化炭素の分離・注入が1トンあたり130ドル程度かかるのに対し、Carbfixの手法は地熱発電所の既存インフラを活用できることもあって1トンあたり30ドルと安価だ。

 もっとも、Carbfixの手法がそのまますぐ実用化できるというわけではない。火力発電所や工場では二酸化炭素の分離プロセスが必要だし、潤沢な水や玄武岩の地層も必要になる。また、玄武岩と二酸化炭素が結合してできた炭酸塩をバクテリアが分解して、より強力な温暖化ガスであるメタンを排出させてしまう可能性もある。

 それでも、温暖化対策に関して久しぶりに希望を抱かせてくれるニュースといえるのではないだろうか。

<

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中