最新記事

日ロ関係

原油暴落で縮小するロシア、北方領土もやがて重荷に?

原油高騰が支えたGDPは今やメキシコ並みに。欧米に擦り寄るロシアに日本は「ワル」く立ち回れ

2016年2月2日(火)16時00分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

収入ガタ減り 原油安がプーチン流強硬外交の転機となるか Stephane Mahe-REUTERS

 ロシアが、見る見る収縮している。ルーブルの対ドルレートが1年で約30%落ち、ドル・ベースでのGDPもそれだけ落ちただけでない。この1年で約40%も下げた原油価格が、ロシアの輸出額を大幅に減らしている。国民の実感としては、インフレで実質所得が1年で約6%も減少したことも大きいだろう。

 00年にプーチン政権が発足して以来、原油価格の高騰(12年間で約4倍)に助けられ、GDPが7~8倍にもなる世界史上の奇跡を演じた。プーチンはそれに乗っていただけで、製造業は国営企業主体で弱体のまま。今やロシアは原油価格と無理心中への道行きだ。9月には議会選挙を控え、経済が分かる指導者ならパニックになりかねない。

 リーマン・ショックでアメリカの力が落ちていたこの7年、中ロ両国は居丈高だった。「多極世界の到来」を唱えて我意を通し、実力不相応に元やルーブルの「国際通貨化」まで要求し始めた。中国は南シナ海で、ロシアはウクライナとシリアで当たり前のように軍事力を行使している。だが米経済が一応回復し、利上げを始め、資金が米国に還流し始めるのと反比例して、中ロの経済は降下し始めた。

【参考記事】復活したロシアの軍事力──2015年に進んだロシア軍の近代化とその今後を占う

 世界の風向きが変わってきた。こうしたときによくあるように、世界の情勢もしばし凪(なぎ)になりそうだ。中ロは日米欧の協力を求めておとなしくなり、ウクライナ情勢もシリア情勢も、話し合いによって決着をつけようとする。そうなると主な国際紛争は中東の過激派テロやパレスチナ問題、アフガニスタンの安定化、北朝鮮の核開発などだ。次期米大統領はまったく新しい環境のなかで就任することになる。

「お人よし」から脱却を

 日本をめぐる大国間のバランスはどうなるか。アメリカが内向きになったとはいえ、日米同盟は揺るぎそうにない。双方にメリットがあるからだ。

 中ロもこれまでどおり、準同盟国としての関係を続けるだろう。約4200キロもの国境を接している以上、紛争は避けたい。人権や民主化問題でのアメリカからの圧力をはね返すためにはスクラムを組む必要もある。モスクワの識者は中国経済の変調に気付いてはいるが、中ロ協力維持で意見は一致している。

【参考記事】金持ちロシアは北方領土を手離さない

 それでも、中ロに対する日本の立場はより強くなるだろう。「中国では儲からない」となれば、一転して欧米諸国は見ないふりをしてきた中国の人権問題をあげつらうようになる。欧米の対中姿勢が硬化すれば、中国にとって日本はそれだけ大事になる。欧米にとっても日本は中国に対するバランスを取る上で重要性を増す。中国が日本を大事にし始めると、クリミア問題で対ロ制裁をして以来、日本に逆ギレしてすねているロシアも、そのままでいられなくなる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中