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アカデミー候補者リストから女性を排除 なぜ映画界は女性監督の能力を認めたがらないのか

The Amazing Invisible Woman

2020年02月04日(火)17時43分
デーナ・スティーブンズ

作品の質とキャストを評価されながらも、ガーウィグ(左)は脚色賞候補に選ばれただけ

<『わたしの若草物語』は監督賞候補に値せず? またも差別に泣いたハリウッド女性監督物語>

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』 (日本公開は3月27日)は、驚くべき映画に違いない。今回のアカデミー賞では作品賞、主演女優賞、助演女優賞、脚色賞、作曲賞、衣装デザイン賞にノミネートされている。

そんな傑作は、なんと舵取り役なしに完成したらしい。監督のグレタ・ガーウィグは監督賞候補に挙がらず、92回目となるアカデミー賞の歴史を通して同部門はほぼ男性で占められている(女性がノミネートされたのは5回だけ)。

筆者は映画賞のノミネート発表にいちいち反応しない評論家を自任してきたが、これはあんまりではないか。

2019年はローリーン・スカファリアの『ハスラーズ』やルル・ワンの『フェアウェル』をはじめ、女性が手掛けたメインストリーム作品の数が、いわばクリティカル・マス(一気に広がる臨界点)に達し始めた年だ。これらの作品はどれも高い評価を得るか、興行的に成功するか、その両方を達成した。

そんな年に、作り手としての権威を認め、監督個人の構想力を評価する部門の候補者リストから女性を排除するなんて、上から目線の性差別そのものではないか。

【参考記事】ハリウッド女優たちの悲劇は死後も続く──伝記映画でも本質にはノータッチ

見えない存在にされて

今回、ガーウィグはアカデミー監督賞候補の本命に近い存在だった。過去に同賞を受賞した唯一の女性キャスリン・ビグローと同じく魅力的な白人女性であり、パートナーは有名な監督・脚本家だ。

ガーウィグをノミネートしていれば、アカデミー賞の選考委員会は画期的な決断をしたと自画自賛できただろう。女性では初めて監督賞に2度ノミネートされる快挙なのだから(ガーウィグは18年に『レディ・バード』で同賞候補になった)。だが女性の功績を認めるのは1度で十分、ということらしい。

『わたしの若草物語』はヒット作であり、100を超える「19年の映画トップ」リストに入った名作だ。才能ある若手のガーウィグには素晴らしいキャリアが待っている。なのにアカデミー賞候補発表を聞いて、なぜ私は罵りの言葉をつぶやいたのか。

認めよう。アカデミー賞は単なる映画の賞ではない。これまで以上に重要な分野で「女性が本当に勝てるのか」が問われることになる今年、女性のリーダーシップの能力を認めなかった姿勢は不吉な前兆のような気がする。

この数年、経験や才能、エネルギー、頭脳を備えたアメリカの女性が、そのどれにも欠ける男性に敗北する場面を何度も目撃してきた。女性は見えない存在とされ、男性だけがオスカー像を、自由世界を率いるリーダーの座を手にすることに、私たち女性は心底うんざりしている。

1人の女性監督が候補から外れたことを社会全体の性差別の証拠だと糾弾するなんて、大げさかもしれない。そのうち私も、アカデミー賞への冷静さを取り戻すだろう。

それまでは、ただこう言おう。男性中心社会で女性が作者として認められることの重要性と困難をテーマとする『わたしの若草物語』は、妖精が魔法で作ったのではなく、実在する女性が脚色し、監督した作品だ、と。

【参考記事】同性愛を公表したらキャリアに傷が──クラシック音楽界とメディアのタブー

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