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黄金のクジャクの間  140年の時を経て現代によみがえる

Whistler’s Peacock

2019年08月23日(金)19時00分
ダニエル・エーブリー

レイランドの磁器コレクションのレプリカも配して、140年前そっくりに再現された部屋 COLLEEN DUGAN

<芸術家とパトロンの微妙な関係を作品に昇華させた J・M・ホイッスラーによる内装美術の傑作が再公開>

19世紀後半に活躍したアメリカ人画家ジェームズ・マクニール・ホイッスラーが内装を手掛けた「ピーコック・ルーム(クジャクの間)」が、オリジナルに限りなく近い形に再現されて、ワシントンのフリーア美術館で公開されている。

同美術館キュレーターのリー・グレイザーによると、イギリスの海運王フレデリック・レイランドが、ロンドンに持つ住まいを「自分の文化的地位に見合った芸術の館にする」ことを決意したのは140年以上前。そのダイニングルームの内装は、当初、建築家のトーマス・ジェキルが担当していた。

ところがジェキルが健康を害したため、玄関の内装を担当していたホイッスラーが名乗りを上げた。そして内装美術の最高傑作の1つといわれる『青と金のハーモニー──ピーコック・ルーム』を作り上げた。だが、完成までの道のりにはちょっとした波乱があった。

あまりにも華麗な変身

ホイッスラーは作業中、レイランドにリバプールの自宅に戻っているよう勧め、その間にジェキルが途中まで進めた内装を完全にやり直してしまった。「ホイッスラーはレイランドに、『あなたのダイニングルームを変身させています。ゴージャスなサプライズになりますよ!』という手紙を書いた」と、グレイザーは言う。「しかし、詳細は知らせなかった。新聞記者を現場に招いて、内装作業を見せたことも伝えなかった」

レイランドが所有する17世紀の清の磁器コレクションと、暖炉の上に配した自作の絵画『磁器の国の姫君』が映えるようにするため、ホイッスラーは四方の壁と天井を青緑色と金箔で塗りつぶした。ジェキルが選んでおいた6世紀の革の壁掛けにも塗料をべったりつけた。

1877年にロンドンに戻ったレイランドは、ダイニングルームの変わり果てた内装に仰天するとともに、新聞に書かれたことで自分の家が庶民の見せ物になっていることに怒り狂った。ホイッスラーが求めてきた莫大な金額にも顔をしかめた。

「交渉の末、レイランドはホイッスラーの請求額の半分で合意した」と、グレイザーは言う。レイランドはホイッスラーにとって初の大物パトロンだったが、この案件で「2人の関係は修復不能なまでに冷え込んだ」。

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