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没後に奇跡の新作! 『かいじゅうたちのいるところ』の絵本作家が遺した贈り物

Frosting on the Cake

2018年11月15日(木)17時00分
アンナ・メンタ

新著『リンボーランドのプレストとゼスト』より。センダックとヨリンクスの3作目の共同作品 COURTESY OF THE MAURICE SENDAK FOUNDATION

<引き出しに眠っていた原稿は、センダックの死後に発見された。長年担当していた編集者は「読んだときは、うれしくて気絶しそうだった」>

2人が初めて会ったのは1970年。アーサー・ヨリンクスは17歳、モーリス・センダックは42歳だった。

「ニューヨーク・タイムズで彼の記事を読んで、どうしてもこの人に会いたいと思った」と、ヨリンクスは振り返る。

電話帳でセンダックの番号を調べ、初めて話をしたときのことはよく覚えている。「『クマのプーさん』をどう思うかと聞かれて、思わず『あの本は大嫌いです』と言ってしまった。するとしばし間があって、彼が突然言った。『次の火曜日にランチをしないか?』」

【参考記事】白雪姫を「禁書」にする中国の危機感

こうして、著名な絵本作家と作家を志す若者の美しい友情が始まった。センダックは63年に『かいじゅうたちのいるところ』(邦訳・冨山房)を発表していた。ヨリンクスは86年に、代表作の1つとなる子供向け絵本『ヘイ、アル』を刊行する。2人の共作『マミー?』(邦訳・大日本絵画)は、センダックにとって唯一の仕掛け絵本だ。

2人は馬が合い、辛辣なジョークや憂鬱な気分を共有した。やがてコネティカット州で近所に暮らし始め、散歩が日課となった。出版業界の愚痴や世界情勢への不満、そしてケーキの話題。センダックを訪ねる人はケーキを持参する決まりだった。

これらのエピソードは、9月に刊行された2人の最新の共作『リンボーランドのプレストとゼスト』に記されている。センダックの死去は今から6年前。だが、彼らがこの本の構想を思い付いたのは、20年近く前のある午後だった。

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モーリス・センダック BARBARA ALPER/GETTY IMAGES

即興で紡いだストーリー

「私たちは小柄なジャズ・ミュージシャンだった。物語の語り手同士による即興の掛け合いだ」と、ヨリンクスは新著のあとがきに書いている。

その10年前に、ロンドン交響楽団がチェコ出身の作曲家レオシュ・ヤナーチェクの作品を演奏した際、センダックは10点のイラストを描いた。いずれも童謡にまつわるものだが、関連性はなかった。それを物語でつなぎ合わせれば、不条理で楽しい子供向けの本になりそうだと、ヨリンクスが提案した。

【参考記事】アンネの物語を現代に──「少女の悲劇」はポップカルチャーで生き続ける

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