最新記事

映画

最初から「失敗」が決まっていたクロエ・ジャオ監督のマーベル映画『エターナルズ』

An Intergalactic Mess

2021年11月16日(火)17時53分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)

セルシには地球人の恋人がいるが、エターナルズ仲間のイカリス(リチャード・マッデン)にも未練がある(なにしろ不老不死だから、恋にも終わりがない)。ちなみにイカリスは、空中を舞いながら目からレーザービームを放つ超能力の持ち主だ。

エターナルズの仲間は大勢いる。ギルガメッシュ(ドン・リー〔マ・ドンソク〕)は怪力の持ち主だが心優しい男で、気まぐれなセナ(アンジェリーナ・ジョリー)を優しく見守る。そのセナは不老不死の運命に耐えかねて心を病み、ともすればエターナルズの仲間たちに対しても攻撃的になる。

スプライト(リア・マクヒュー)はエターナルズで唯一見た目が子供のヒーローだ。イカリスに恋心を寄せており、いつか人間の少女に生まれ変わりたいと願っている。

ドルイグ(バリー・コーガン)は反抗的なタイプ。超能力を使ってアマゾンの奥地に居住地をつくり、そこで彼を信奉する地球人たちと一緒に暮らしている。

そしてキンゴ(クメイル・ナンジアニ)は、おっちょこちょいのスーパーヒーロー。指先から放つビームで敵を倒せる超能力の持ち主だが、インド映画のスターとして暮らす日々に満足している。

監督の個性が見えない

脚本は、ジャオに加えてパトリック・バーリーとライアン・フィルポ、カズ・フィルポが担当した。広大な銀河系で延々と繰り広げられるさまざまなアクションの合間に、人間的なジョークをたくさんちりばめたのはいい。だが残念ながら、それらがうまくかみ合っていない。

無理もない。クロエ・ジャオは過去の3作で、いずれも田舎暮らしで平凡な、しかし周囲になじめない人たちの暮らしを描いてきた。急にスーパーヒーローを描けと言われても、正直、気が乗らなかったのかもしれない。

もどかしさを感じるのは、たぶん物語に筋肉系のトーンが欠けているからで、人類の存続を脅かすような敵の姿が見えないせいでもある。

例えば『アベンジャーズ/エンドゲーム』には、宇宙の生命の半分を破壊し尽くすという強烈な使命感に燃える悪の権化のサノスがいた。しかし本作に登場するのは、エターナルズをやっつけること以外に興味のないCGモンスターの群像ばかりだ。

それでも月並みなマーベル版スーパーヒーロー映画に比べると、『エターナルズ』は自然光をうまく採り入れているし、開けた風景もよく映し出している。だが、この監督らしさが出ているのはそこまで。結局のところ、最後は2億ドルの巨費をつぎ込んだマーベルの意思が勝つ。

まあ、それもいい。監督のジャオはその傑出した才能ゆえに、21世紀の映画界を席巻するジャンルの大作を手掛ける機会を与えられたのだ。そして堂々と失敗作を撮る権利を行使し、こんなものかと肩をすくめて苦笑いし、さっさと前へ進んでいく。

彼女は次作で、どのような世界を描くのだろう。筆者としては、そこに登場するヒーローたちが今回ほどスーパーでないことを願うのみだ。

©2021 The Slate Group

『エターナルズ』
監督・脚本╱クロエ・ジャオ
主演╱ジェンマ・チャン、リチャード・マッデン
日本公開中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スペイン首相が辞任の可能性示唆、妻の汚職疑惑巡り裁

ビジネス

米国株式市場=まちまち、好業績に期待 利回り上昇は

ビジネス

フォード、第2四半期利益が予想上回る ハイブリッド

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中