デマと偏見のはびこるアメリカに、ハチャメチャ男ボラットが放り込まれたら......
The Borat Sequel is a More Serious Moviefilm
ボラットはトランプ政権への貢ぎ物として娘を舞踏会で披露するが COURTESY OF AMAZON STUDIOS
<バロン・コーエンの風刺コメディー続編は現実のアメリカと向き合う本物のドキュメンタリー>
アマゾンプライム・ビデオで配信中の映画『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』の主人公ボラットは、カザフスタンのジャーナリスト。トランプ政権の大物に貢ぎ物を贈るという任務を帯びてアメリカにやって来る。
ところが貢ぎ物にするはずの自分の娘は出て行ってしまい、帰国しても死刑が待っている。自殺しようにも銃を買う金すらなく、彼は近くのシナゴーグ(ユダヤ教会堂)で「銃乱射事件の標的にされるのを待つ」ことにする。
2006年の『ボラット栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』に続き、主演はイギリスのコメディアン、サシャ・バロン・コーエン。前作でもユダヤ人差別がネタにされたが、このシナゴーグのくだりもかなりのブラックジョークだ。
バロン・コーエンは「もの知らずの外国人」のイメージを具現化したボラットというキャラクターを、現実のアメリカ社会に放り込んで作品を作る。彼はニューヨーク・タイムズ紙の取材に対し、前作ではボラットを介して人々の「内側にある偏見を暴き出した」と語っている。
だが今のアメリカでは、偏見を持つことは恥ではないようだ。ドナルド・トランプ米大統領やその支持者がメディアによる陰謀論を唱えたり「グローバルなエリート」にかみつく際には、反ユダヤ感情が見え隠れする。ネットにはびこるQAnon(Qアノン)の陰謀論の根底にも、いわゆる「血の中傷」(ユダヤ人は祭儀のためにキリスト教徒を殺すという、事実無根だが昔からある主張)がある。
ボラットは新型コロナ禍で外出禁止となったワシントン州の町で、そうした陰謀論を信じる男たちの家に厄介になる。彼らはビル・クリントン元大統領夫妻が子供を怯えさせ、「アドレナリンの分泌液」を抜き取って摂取していると語る。
今作は凝り固まった偏見を暴き出すよりも、偏見に対する「普通の人々」の無関心さに光を当てる。例えばケーキ店でボラットが、チョコレートケーキの上に反ユダヤ的なメッセージ(とニコニコマーク)を書くよう頼む場面。店の人は親切で、ニコニコマークをいくつも書いてくれる。
差別感情をどう描くか
差別意識を形にして見せるバロン・コーエンの手法に対し、あらゆる差別的偏見との闘いを掲げるユダヤ系団体の名誉毀損防止連盟(ADL)などからは、効果は期待できず、無責任だとの批判も聞かれる。自らもユダヤ人で、食事や安息日の戒律を守って暮らしているというバロン・コーエンも、そうした批判は重々承知している。