最新記事

追悼

必要か疑わしいものでも大ヒットさせた「テレビ通販の父」ロン・ポピール

DEATH OF A SALESMAN

2021年9月2日(木)17時45分
デービッド・ワイス

210907P46_TVS_02v2.jpg

本当に必要か疑わしい便利グッズの数々を巧みに売り込んだポピール AP/AFLO

こうしたやぼったい売り込みは、彼らが意図しない形で笑いを生んだ。ロン・ポピールはテレビのお笑い番組でパロディーになり、高視聴率のトークショーに相次いで招かれた。

もしあなたがサラダ用の野菜をスライスするグッズにさほど関心がないとしても、ポピールの会社がテレビ通販番組で送り出す商品のどれかは心に刺さったのではないだろうか。家庭用カラオケセット、電動パスタメーカー、スモークレス灰皿、電気食品乾燥機......こうした品物にハートをわしづかみにされて、真夜中に思わずクレジットカードに手を伸ばした人もいたかもしれない。

ジャーナリストのマルコム・グラッドウェルは、ニューヨーカー誌の記事でロン・ポピールをたたえて「発明家」と呼んだ。だが、ポピールをヘンリー・フォードやトーマス・エジソンと肩を並べる発明家と見なす人はいないだろう。その点は、本人も自覚していたようだ。自分が家庭用カラオケセットの「ミスター・マイクロフォン」ではなくて、面ファスナーの発明者だったらよかったのに、とよく言っていたという。

確かに、レコードプレーヤーや自動車は、世界を変える力を持った発明と言える。それに比べて、この商品を例に持ち出すのはいささか酷かもしれないが、ポピールの増毛スプレー(薄毛が気になる箇所に黒いパウダーを吹き掛けて、毛量を多く見せる商品)は、お笑いのネタになるのがいいところだろう。

安っぽい演出と素人くさい映像の魅力

ポピールが販売してきた個々の商品の評価はさておき、通販番組で私の目をクギ付けにしたのは、予算をかけない素朴な番組作りだ。ポピールの番組では、雇われた聴衆がスタジオで大げさに拍手して、時には商品を口々に絶賛する安っぽい演出が定番だった。それに、映像を乱暴にぶった切るような素人くさい映像編集も見落とせない。

けれども、それ以上に私が目を奪われ、少々あきれずにいられなかったのは、ポピールが通販番組のためにつくり上げたキャラクターだった。番組内でポピールは、残酷なまでにぶっきらぼうな振る舞いを繰り返した。その被害に遭っていたのが、ナンシー・ネルソンのようなアシスタント役の女性たちだった。

電動パスタメーカーの実演をしたときは、ネルソンが進行を助けようとして差し挟む言葉(中身のない発言ではあったけれど)をひっきりなしに遮り、しまいには、無駄話はやめにして、さっさとパスタメーカーに小麦粉を入れろと命令した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中