最新記事

人民元

日本人が知らない「人民元」73年の歴史──5つの転機があった

THE MOMENTS OF GIANT LEAPS

2021年3月3日(水)16時45分
前川祐補(本誌記者)
中国の観光客

変動相場制が導入された2005年に通貨を両替する観光客 NATALIE BEHRING-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<中国の経済成長と共に存在感を高めてきた人民元は、IMFから「国際通貨の象徴」に選ばれ、名実共に世界の表舞台に立った。何が飛躍の転機になったのか。AIIBや一帯一路もその国際化と関係しているのか>

(本誌「人民元研究」特集より)

1948年に人民元が発行されてから73年。

かつては激しいインフレに見舞われたり外貨交換には兌換券が必要だったりと世界経済では「弱小」だった人民元が、今や米ドルから基軸通貨の称号を奪うとの議論が起こるまでに存在感を高めた。

その背景には、急速な貿易の拡大に牽引された中国の経済成長があった。だが一国の通貨が国際的な価値と評価を得るには、自由な取引を認める法制度と売買を可能にする金融市場が不可欠だ。
20210309issue_cover200.jpg
人民元も例外ではなく、規制緩和と為替市場の構築を慎重に、だが着実に進めてきた。

その変遷においては5つの重要なターニングポイントがあったと、中国経済の独立系調査研究機関プレナム(北京)のパートナー、陳龍(チェン・ロン)は語る。本誌・前川祐補が聞いた。

◇ ◇ ◇

――人民元が国際化へと動き始めた最初の転換点はいつだったのか。

2005年に米ドルとの固定相場制度を撤廃し、変動相場制に移行したときだ。1996年以降はおおむね1ドル=8.3元に固定されていたが、市場の動きに合わせるようになった。

もっとも完全な変動相場ではなく、1日の変動幅は中国人民銀行(中央銀行)が交付する中心レートの上下0.3%以内の変動幅に限定されていた。この幅は数年をかけて徐々に広がり2014年には2%まで拡大した。

ただ当時は取引できる主体が国内の投資家に限定されていたこともあり、国際化の入り口に立ったという程度だった。

より本格的なステップは2010年。香港において人民元の取引を解禁したことだ。中国本土以外で流通するいわゆるCNH(オフショア人民元)と呼ばれる人民元で、国外の投資家はこの資本市場の誕生によって人民元の本格的な自由取引が可能になった。

投資家はこのとき初めて、ドルやユーロなどの通貨と同じように人民元を取引できる感覚を得たのではないかと思う。

――国内(オンショア)と国外(オフショア)の2つの為替市場ができたわけだが、そうした理由は?

中国政府は通貨の安定を非常に重視している。制御できないほど取引が拡大したり相場が乱高下すると金融市場が混乱して国内経済が打撃を受けるため、自由化を慎重に進めた結果だ。

中国の為替当局は、1985年のプラザ合意による円高ドル安路線がその後の日本経済に与えた影響から多くを学んだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英国の不就労率、8年ぶり高水準 G7で唯一コロナ前

ビジネス

オープン外債を350億円積み増し、ヘッジ外債は残高

ワールド

ポーランド大統領、トランプ氏と私的に会談 NYで

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)トヨタ、プリウス生産を当面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 5

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 6

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 7

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 8

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    対イラン報復、イスラエルに3つの選択肢──核施設攻撃…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中