最新記事

ビジネス

「それは私の仕事ではありません」 ワークマンはそんなことを言う社員をなぜ大歓迎するのか

2021年1月25日(月)17時40分
岡村 繁雄(ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

ワークマン専務取締役 土屋哲雄さん

ワークマン専務取締役 土屋哲雄さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)

改革への反発を解消した秘策

もちろん、慣れないパソコンに向き合うことについては、それまで経験と人脈で業績を積み上げてきたベテラン社員からの反発もなかったわけではない。だが、14年の「中期業態変革ビジョン」策定時にデータ分析の能力を人事制度に反映させ、一定の活用能力を部長への昇格要件にした。もっと驚くのは、会社がスキルアップを要求する見返りに、5年間で100万円のベースアップを約束したことだ。

「売上増を前面に掲げる会社はあっても、賃上げをコミットする経営者はまずいません。これは結構インパクトがありました。しかし、これから社内の改革をやり抜こうとするからには絶対に必要なことだったと確信しています。実際、その後のマネジャー以上の退職者はゼロ。皆さんが理解してくれたからでしょう」

経営幹部は極力出社しない

この間「しない経営」も着実に進んだ。土屋氏は基本的なスタンスとして「もしダメだったらやめればいい」と考えていたという。そんな彼が決断したことの1つが、社内行事や夜の付き合いをなくすこと。おそらく、女性社員たちは大歓迎したに違いない。パート募集にもその旨を明記すると、応募者数は4倍に増えた。

経営幹部は極力出社しないというのも意表を突く。会社で部下の顔を見ると、ついしなくてもいい指示を口に出してしまう。それらは往々にしてムダな仕事で価値を生むことはまずない。そんな考えから、極力出社せず現場に行くことを重視しているのだ。

女性社員の活躍が目立つワークマンプラス

こうした取り組みが成果として現れたのが、18年9月に大型ショッピングモールのららぽーと立川立飛(たちかわたちひ)に初出店した「ワークマンプラス」だろう。データ分析が方向性を示し、ワークマンらしさも損なわない一般向けのアウトドアウエアを扱う新業態のショップだ。このマーケットの規模は、土屋氏の試算では4000億円。まさに同社の新たな大海原になりうる。

「幸い、出だしから好調で、2年強で270店舗を数えるまでになりました。ここでは女性社員の活躍が目立ちます。従来のワークマンであれば製品は棚に並べ、ハンガーに吊るすだけでしたが、新たにマネキンを使ったりしています。ショップにデザインとアートが加味されたわけです。ショッピングバッグの上に製品を置くとインスタ映えするとか、まさに女性社員ならではのセンスを生かしてくれています。それまで隠れていた才能が頭角を現すようになりました」

それは「#ワークマン女子」により顕著だ。とにかく、これから伸ばしていく店舗形態なので、女性スタッフの成長が成否を握っているのは間違いない。土屋氏の入社当時の男女比率では1割にすぎなかった女性社員が、いまは2割に増え、明らかに現場の主力となっている。一線に立つ彼女たちの登用についてはどう考えているのだろうか。企業によっては管理職になりたがらない女性が多いことを嘆く人事担当者もいるが、その点にも一家言ある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック下落、ネットフリッ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中