最新記事

アメリカ経済

米民主党の追加経済対策で注目される「バイデントレード」の死角 株高・金利上昇シナリオは万全か

2020年10月12日(月)12時10分

金融市場は米大統領選でのバイデン氏と議会選挙での民主党優位を織り込み、財政拡大観測による株高・金利上昇となっているが、いわゆる「バイデントレード」を疑問視する声も少なくない。写真はペンシルベニア州エリーで10日撮影(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)

金融市場は米大統領選でのバイデン氏と議会選挙での民主党優位を織り込み、財政拡大観測による株高・金利上昇となっているが、いわゆる「バイデントレード」を疑問視する声も少なくない。富裕層や企業に対する増税は本質的に株安要因であるだけでなく、選挙の行方も最高裁裁判事の増員問題などで依然予断を許さないためだ。

トレード内容が変質

シナリオの中身が変わった。以前はトランプ氏勝利であれば株高・債券安、バイデン氏勝利なら株安・債券高という予想が主流であったが、ここにきてバイデン氏勝利でも株高・債券安(金利上昇)というシナリオがマーケットで広がっている。

シナリオを変化させたのは「トリプルブルー」による財政拡大観測だ。トリプルブルーとは、米大統領選で民主党のバイデン氏が勝利し、議会選挙でも上院・下院ともに民主党が制することを示す。ブルーは民主党のイメージカラーだ。

民主党の追加経済対策の規模は2.2兆ドル。一方、トランプ政権が提案する追加対策案は1.8兆ドル規模。バイデン氏は、2兆ドルのインフラ投資策なども掲げており「トランプ氏よりも景気刺激的になるのではないか」(外資系運用会社)との見方が強まっている。

しかし、そのシナリオはやや前のめり過ぎるとの指摘も少なくない。「トリプルブルーで本当に財政拡大となるかは不透明。そもそもバイデン氏や民主党が勝利するかもまだわからない。カネ余り相場の都合のいいシナリオだ」と、パインブリッジ・インベストメンツの債券運用部長、松川忠氏は指摘する。

脱トランプトレード

そもそも金利上昇は株価にとってマイナスであり、「バイデントレード」は矛盾をはらむ。景気拡大による「良い金利上昇」であればマイナス影響は限定的だが、財政拡大による国債増発を懸念した「悪い金利上昇」であれば、株価にネガティブに働く。

今回、パウエルFRB(連邦準備理事会)議長は積極的な財政政策による景気下支えを期待している[nL3N2GK3SX]。FRBが財政拡大に呼応し、国債買い入れを増やせば金利上昇は抑制される可能性が大きい。低金利は株高要因だが、米金利上昇や、それをもとにしたドル高/円安シナリオは崩れることになる。

一方でバイデン氏は、富裕層や企業に対する増税を打ち出している。株式価値の源泉は企業の利益であり、株の買い手としての富裕層への増税も、株価にとってはネガティブ要因。増税が先延ばしされても、将来の価値を織り込む株価にとってはマイナスだ。国債に頼らない財源として増税策を実施すれば、株高シナリオは揺らぐことになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中