最新記事

インタビュー

日本人のインスタ好きの背景に「英語が苦手な事実」あり?

2020年9月28日(月)11時40分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


まず僕たちインスタグラムのチームがやったことは、写真やカメラが好きなコミュニティに対して、アプローチすることでした。

といっても、まだインスタグラムなんて誰も知らなかった時代です。いきなり連絡して「このアプリを使って!」と言っても、話なんて聞いてくれませんよね。

もちろん、お金を使って利用してもらうことも可能ですが、そういった写真はどうしても広告的になりすぎて説得力がない。僕たちが欲しいのは、「インスタグラムを自発的に使うカメラや写真好きのユーザー」と「彼らが撮る熱量の高い写真」。

そのためには、同じ言語で話して仲良くなる必要があると考えました。誰だって知らない人よりも友人や仲間が薦めるもののほうが使いたくなりますからね。

そこで、写真やカメラの専門的な勉強をして、さまざまな写真コミュニティに参加したりしました。僕自身、話題になっていた美術館の展示のために、富山や金沢の写真クラブやコミュニティに入会して、東京から通っていたこともあります。

また、インスタグラムの特性である「目の前にある風景を共有する」という意味では、登山や料理、旅行が好きな人とも相性が良さそうだと考え、これも同じ熱量で話せるように勉強して、コミュニティにアプローチしました。

出稿してもらう広告にもこだわりました。美しいビジュアル(宣材写真)を多く持つクライアントに厳選してアプローチすることで、メディアとしての価値を高めるよう努めました。

こうした地道な努力が実を結び、インスタグラムは「熱量」の高い美しい写真がタイムラインに並ぶことで話題になり、著名人の利用者や、さまざまなメディアに取り上げられたことで、一般の人々にも浸透。わずか3年で「インスタ映え」が流行語大賞に選ばれるまでになりました。

利用者が増えたことで、今では美しい写真だけでなく、著名人を含めた人々のごく普通な日常生活やマンガ、そして動画を含め、さまざまなコンテンツがタイムラインに並ぶようになりましたが(笑)。

しかし、これだけ聞くと「デジタルプラットフォームの成長戦略」というイメージからは程遠い印象を受ける。それに対し長瀬氏は、「デジタルマーケティングは決して『魔法』ではない」と語る。


デジタルの発達に伴い、あらゆるものが簡略化され、また数値化できるようになったことで「すべての問題はウェブ上で解決できる」と考えている人も多いと思いますが、それは幻想です。

例えば、ウェブ上でのつながりや関係性をグラフ化したソーシャルグラフが、現在のSNSマーケティングではもてはやされていますが、日常のすべてがSNSに投影されているわけではありません。

ソーシャルグラフに表されたデータの先には必ず人がいるし、SNS上にアップされている写真も、ユーザーが実際にその場所に足を運んだり、作ったりした「リアル」の延長です。

だからこそ、「リアル」な現場と人を大事にして、そこから熱量を伝えることがインフルエンスの基本だと考えています。

インスタグラムの利用者の中でも、「インスタグラマーズ」という自発的に発生したユーザーコミュニティ、いわばインスタファンのオフ会的なコミュニティが出来て、そのコミュニティの人たちと展示会やイベントを積極的に開催し、コアユーザーとリアルでコンタクトする機会を設けていたりもしていました。

発信する側も受け取る側も、そしてさまざまなツールを使うのも、プラットフォームを作るのも人ですから、デジタルだけで完結するものなんてこの世にはないんです。

僕は日本初のCDOですし、今までずっとマーケティングに関わってきたのでデジタルの数字ばかり追っていると誤解されている方が多いかもしれませんが、デジタル時代だからこそ数値化されない「熱量」がもっとも大事だと思っています。


マーケティング・ビッグバン
 ――インフルエンスは「熱量」で起こす』
 長瀬次英 著
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

【関連記事】「コロナ後は接待する会社が伸びる」CDOの先駆者・長瀬次英が語る飲み会の重要性

<お知らせ>
■緊急開催!オンラインイベント
長瀬次英「マーケティングの未来のカタチ」
2020年10月2日(金)
19:00~20:30
主催:代官山 蔦屋書店
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/16078-1515190923.html

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

再送米GDP、第1四半期+1.6%に鈍化 2年ぶり

ビジネス

ロイターネクスト:為替介入はまれな状況でのみ容認=

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中