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「コレはないわ」な丸焼き機をパナソニックが製品化した理由

2018年2月2日(金)16時55分
山田雄大(東洋経済記者)※東洋経済オンラインより転載

塊肉を回転させながらゆっくりと焼き上げる。国内にはこれまでなかった商品だ(記者撮影)

「ジジジ、ジュワ~」。2017年11月にパナソニックが発売した「ロティサリーグリル&スモーク」が売れている。塊肉をゆっくりと回転させながら焼き上げる調理家電だが、販売計画に対して150%で推移している。

月産台数4000台だから、売れているといっても何十万台という規模ではない。しかし、4万円台後半という店頭価格(中グレードのオーブンレンジよりも高い)や一般的なトースターよりも大きいサイズ(幅405ミリ、奥行き416ミリ、高さ280ミリ)、趣味性の強さを考えれば、「ヒット」といっていい。

「ロティサリーグリル」を初めて見たとき、記者は「面白いは面白いが、こんなマニアックな商品がそんなに売れるのか?」「天下のパナソニックでよく商品化できたな」と感じた。

パナソニックはかつて、他社の開発品に似た商品を出して物量作戦でトップを奪うことから旧社名にちなんで"マネシタ"とも呼ばれた。チャレンジングな商品を生み出すイメージはあまりない。

社内の反応は「コレはないわ」

2015年末、パナソニックの家電事業を担当するアプライアンス社(社内カンパニー)で調理家電の新商品企画会議が開かれた。

その場で開発担当の桐石卓・主任技師が用意したのが、回転機構をつけた改造オーブン。それで丸鶏をぐるぐると回して焼き上げた。

数年前に休暇で訪れたスペインで丸鶏を回して焼く料理(ロティサリーチキン)を見てから、このアイデアを温めていた桐石氏は、手作りの試作機を持ち込んでプレゼンを行った。調理実演は大盛り上がり。だが、参加者から出たのは、「コレはないわ」。

試作機は一般のオーブンレンジよりも大きく、「日本の台所事情を考えたら、これは難しい」(調理器商品企画課の石毛伸吾氏)というのが率直な感想だった。

しかし、強烈なインパクトを残したこのアイデアは、捨てられることはなかった。

日本国内で白モノ家電のメインターゲットは共働き世帯だ。比較的収入が高く、こだわりも強い。気に入ってもらえれば、高付加価値商品にも手を伸ばしてくれる。洗濯機や冷蔵庫の国内平均単価が右肩上がりであることが、それを証明している。

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取材中に肉を焼いてもらった。ジジジという肉が焼ける音、脂が落ちるとジュワ~という音とともに美味しそうなにおいが...(記者撮影、製品化前の試作品)

足りなかった「感情訴求型」の商品

共働き世帯向けの家電には2タイプある。時間のない平日に家事を効率化する機能訴求型の商品。買いだめに適した大容量冷蔵庫、まとめ洗い・乾燥をこなす洗濯機、ロボット掃除機などで国内家電の王者、パナソニックが得意とするのはこちらだ。

もう一つが、日々の生活をちょっとぜいたくにしたり、休日に家族や友人と過ごす特別な時間を演出する、いわば感情訴求型の商品だ。調理家電では、油を使わないノンフライヤーや高級トースターなどで他社がヒットを飛ばしており、「パナソニックとしても新しい何かを出せないかと考えていた」(石毛氏)。

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