コラム

嘘広告を拡散させる「フェイクブック」のひどさ(パックン)

2019年11月15日(金)16時00分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

Trump’s Phony Facebook Ad / ©2019 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<トランプ陣営がバイデンに関する事実無根の陰謀論をFB広告で拡散させたが、バイデン側からの広告取り下げの要求にFBは応じなかった>

ワシントン・ポスト紙のスローガンは Democracy Dies in Darkness(闇の中では民主主義は死ぬ)。CNNは Most Trusted Name in News(ニュースにおいて、最も信頼されている名前)。ではフェイスブックは? 風刺画では Lies Pay!(嘘は金なり!)だ。

真実を明るみに出し民主主義を守ろうとする新聞や、その名に懸けて情報の信憑性を保証するテレビ局は褒めるべき。でも、リア充自慢中心のSNSなんか関係ないだろう! そう思われがちだが、実はアメリカの成人の7割近くがフェイスブック(FB)利用者で、4割以上はFBでニュースをチェックするという。チェックしなくても、政治系の広告が自然に目に入る仕組みになっているから、情報の配信力や世論への影響力でいうとFBは「報道機関」と変わらない。むしろ、上回るかもしれない。

だが、報道機関との大きな違いはある。オンラインで知り合った人と初めてオフ会で会うと、髪の量や体形がプロフィール写真と違うことがよくあるように、SNSはサイト上の情報の信憑性を気にしない。それはニュースにおいてもだ。

風刺画は、その顕著な例を示している。Trump Ukraine Scandalは「トランプのウクライナ疑惑」。ドナルド・トランプ米大統領がウクライナの大統領に対し、アメリカからの軍事支援の代わりに、トランプの政敵であるジョー・バイデン前副大統領を捜査するよう求めた疑惑だ。2人の電話会談の書き起こし、外交官や大使の証言などの証拠が多く、背任行為だとして下院の弾劾調査のきっかけとなった。日本でいう、チュートリアル徳井さんの申告漏れ並みの大ニュースだ。

一方、Biden Ukraine Scandalは「バイデンのウクライナ疑惑」。バイデンが副大統領時代、10億ドルの支援の代わりに息子関連の会社を捜査する検察官の解雇をウクライナに求めた疑惑......なんてない。事実無根の陰謀論で、フェイクニュースなだけ。だが、そんな映像がFBで流れ、1100万回以上も再生されている。それも広告で、広告主はトランプ陣営。

トランプ側は証拠も見せず、バイデン側は当然、虚偽の誹謗中傷だとして広告取り下げを求めた。だが、FBは応じなかった。政治家の発言を制限すべきではないと説明しているが、別の理由が考えられる。分かるカネ? というか、分かる! 金!

政治広告はビッグビジネス。2016年の大統領選挙中、クリントン陣営とトランプ陣営で合計8100万ドルもFBの広告に支払った。トランプ陣営は今も、3カ月500万ドルのペースで大金をかけている。いちいちファクトチェックをしていたら、FBの収入が激減するかもしれない。

まあ、フェイクニュース禁止へと改めることは難しいだろう。だったら開き直って、名称をフェイクブックに改めれば?

<本誌2019年11月19日号掲載>

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プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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