コラム

デジタル版「毛沢東語録」は文革時代の紙版よりも恐ろしい

2019年11月08日(金)18時30分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/唐辛子(コラムニスト)
デジタル版「毛沢東語録」は文革時代の紙版よりも恐ろしい

Digitalizing Mao’s Little Red Book / ©2019 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<習近平国家主席の指示や談話が大量に収録されたアプリ「学習強国」は、クイズに解答したポイントで忠誠度まで評価される>

世界でよく売れている本といえば、1番目は『聖書』、2番目は「紅宝書」。紅宝書とは『毛沢東語録』のことだ。

ポケットサイズで赤いビニールカバー、持ち運びしやすく汗にも強い。文化大革命時代は紅宝書を学ぶことが国民としての義務で、誰もが1冊持っていた。毎日朗読し、暗記し、どんな場面でも語録の言葉を引用しなければならない。仕事の報告書を書くときはもちろん、ラブレターを書くときも。

1976年に毛沢東が死去し、10年間の文化大革命が終わると中国人は紅宝書から解放された。その後の40年間、経済発展に没頭し、紅宝書の時代は過ぎ去った遠い歴史だと思ったら、新バージョンがネット上に現れた。

それは共産党中央宣伝部と電子商取引大手のアリババが共同開発し、今年の1月1日から配信開始した「学習強国」というアプリだ。政府関係のニュースに加えて習近平(シー・チンピン)国家主席の指示、談話、画像が大量に収録されている。「学習強国」という名前は、「習に学んで強国になる」の意味。習近平思想を学び、クイズに答えてポイントを稼ぐ仕組みで、ポイントが高くなるほど習近平への忠誠度も高いと見なされ、仕事の業績の一部として評価される。

1月に配信開始されたとき、使用を義務化されたのは共産党員と各地の政府職員だけだった。ところが8月になると、メディアの記者にもそれが及んだ。アプリのテストに合格した人しか記者証を発行しないという規定が作られたのだ。

初めはかなり抵抗感を持つ人もいた。だが実際に使ってみると音楽、映画、歴史など多彩な文化講座を無料で楽しむことができ、獲得ポイントは観光スポットの入場割引や商品割引に使える。みんな何となく慣れてきたらしい。

バージョンアップされた新しい紅宝書はずいぶん楽しそうだが、国民の思想統制という核心は毛沢東時代のものと全く同じ。むしろ、この進化したデジタル版のほうが恐ろしい。そのうち、国民の義務として全ての中国人はこのアプリを使用しなければならなくなるかもしれない。かつての『毛沢東語録』と同じように。

【ポイント】
共産党中央宣伝部

党のプロパガンダ機関。国内のあらゆるメディアを監視するが、2018年の機構改革で報道・出版・映画を直接監督するようになった。

アリババ
中国の電子商取引最大手。1999年に馬雲(ジャック・マー)が創業。ネット通販やオークション、オンライン決済などに事業を広げた。マーは共産党員でもある。

<本誌2019年11月12日号掲載>

20191112issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

11月6日発売号は「危ないIoT」特集。おもちゃがハッキングされる!? 室温調整器が盗聴される!? 自動車が暴走する!? ネットにつなげて外から操作できる便利なスマート家電。そのセキュリティーはここまで脆弱だった。

プロフィール

ラージャオ(中国人風刺漫画家)/唐辛子(コラムニスト)

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<唐辛子、タン・シンツ>
作家・コラムニスト。中国湖南省長沙市生まれ。大型ホテルで総経理を務めたのち、98年から日本に定住。中国語雑誌の編集などを経て、日本に暮らす中国人女性の視点で日本の生活や教育、文化を批評・紹介している。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

ニュース速報

ワールド

米中の「第1段階」通商合意、中国の関税撤廃要求で内

ビジネス

小学生に1人1台PCを検討、企業の内部留保活用も=

ワールド

中国、香港人権法案巡り米公使に強く抗議

ビジネス

中国人民銀、最優遇貸出金利を小幅引き下げ 景気支援

MAGAZINE

特集:プラスチック・クライシス

2019-11・26号(11/19発売)

便利さばかりを追い求める人類が排出してきたプラスチックごみの「復讐劇」が始まった

人気ランキング

  • 1

    「韓国は腹立ちまぎれに自害した」アメリカから見たGSOMIA問題の本質

  • 2

    中国は「ウイグル人絶滅計画」やり放題。なぜ誰も止めないのか?

  • 3

    香港の完全支配を目指す中国を、破滅的な展開が待っている

  • 4

    米韓、在韓米軍駐留費巡る協議わずか1時間で決裂 今…

  • 5

    余命わずかな科学者が世界初の完全サイボーグに!?

  • 6

    野党の「桜を見る会」追及にはなぜ迫力がないのか

  • 7

    米中貿易協議は既に破綻しかけている

  • 8

    香港デモ、理工大キャンパスがまるで「内戦」

  • 9

    モンゴルでマーモットの生肉を食べた夫婦がペストに…

  • 10

    「愚かな決定」「偏狭なミス」米専門家らが韓国批判…

  • 1

    GSOMIA失効と韓国の「右往左往」

  • 2

    トランプが日本に突き付けた「思いやり予算」4倍の請求書

  • 3

    ペットに共食いさせても懲りない飼い主──凄惨な退去後の現場 

  • 4

    アメリカが繰り返し「ウソ」を指摘......文在寅直轄…

  • 5

    日本のノーベル賞受賞に思う、日本と韓国の教育の違い

  • 6

    香港デモ隊と警察がもう暴力を止められない理由

  • 7

    文在寅政権の破滅を呼ぶ「憲法違反」疑惑──北朝鮮の…

  • 8

    「安い国」になった日本の現実は、日本人にとって幸…

  • 9

    香港の完全支配を目指す中国を、破滅的な展開が待っ…

  • 10

    「韓国は腹立ちまぎれに自害した」アメリカから見たG…

  • 1

    マクドナルドのハロウィン飾りに私刑のモチーフ?

  • 2

    「アメリカは韓国の味方をしない」日韓対立で米高官が圧迫

  • 3

    意識がある? 培養された「ミニ脳」はすでに倫理の境界線を超えた 科学者が警告

  • 4

    GSOMIA失効と韓国の「右往左往」

  • 5

    インドネシア、巨大ヘビから妻救出した夫、ブタ丸呑み…

  • 6

    トランプが日本に突き付けた「思いやり予算」4倍の請…

  • 7

    「武蔵小杉ざまあ」「ホームレス受け入れ拒否」に見る深…

  • 8

    アメリカが繰り返し「ウソ」を指摘......文在寅直轄…

  • 9

    中国人女性と日本人の初老男性はホテルの客室階に消…

  • 10

    ペットに共食いさせても懲りない飼い主──凄惨な退去…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!