コラム

「オバマの再来」オロークが民主党予備選から撤退......候補者レースの本質は「対比」にあり

2019年11月12日(火)18時00分

オバマから後継者として期待されたオロークだったが、大統領選の民主党候補者指名争いから撤退した ERIC THAYER-REUTERS

<オロークが18年上院選で注目されたのは、不人気な共和党現職テッド・クルーズと比較されたから>

アメリカ民主主義のスーパースターは、人物の中身より他者との対比によって生まれることが多い。例えばオバマ前大統領。2000年のオバマと2004年のオバマに大差はなかったが、2000年の下院選では予備選で地味な現職候補に大差で敗れ、4年後の上院選は歴史上最大の地すべり的圧勝で当選した。

だからオバマはよく分かっていたはずだ。ベト・オローク前下院議員が2018年の上院選で一躍注目の的になったのは、本人に特別な何かがあったからというより、ひどく不人気な共和党の現職テッド・クルーズとの対比のおかげだったという事実を。それでもオバマはオロークに対し、自分の後継者として大統領選に立候補するよう個人的に勧めたという。

大きな判断ミスと言わざるを得ない。事実、「オバマの再来」と呼ばれるほどの人気を誇ったオロークは11月1日、大統領選の民主党候補者指名争いから撤退した。

オローク<ブーティジェッジ<?

オロークは自力ではどんな分野でも目立った成果を残せなかった人物だ。学生時代の成績はぱっとせず、飲酒運転で複数の逮捕歴があり、ミュージシャンとしてもビジネスマンとしても成功できなかった。

上院選の敗北後、大統領選への立候補は自分の運命だと感じた――オロークは雑誌のインタビューでそう語ったが、選挙運動は勢いを欠き、大げさな身ぶり手ぶりや中身のない軽さ、すぐに興奮する性格はしばしば嘲笑を浴びた。オロークは出馬宣言の前、上院選の敗北後に全米中を回る「自分探し」の旅に出たという。自己愛の強さと精神の不安定さを表す行動だ。

だが敗因は、大げさな腕の動きや底なしの自己愛ではない。同様に若く、見た目がいいカリスマ的政治家、サウスベンド市長のピート・ブーティジェッジがいたからだ。オロークはブーティジェッジの政策提言、現実的でよどみのない語り口、本物の重厚さとの対比を余儀なくされた。

自身の選挙運動の失速とブーティジェッジの急浮上を目の当たりにしたオロークは、この対比のせいで追い込まれていることに気付いていた。撤退前の候補者討論会ではブーティジェッジに攻撃を仕掛け、世論調査を気にする意気地なしと示唆した。

ブーティジェッジは強烈な反撃に出て、(格好ばかりで中身のない)オロークに勇気を教えてもらう必要はないと言った。ブーティジェッジのアフガニスタン従軍経験を思い起こさせる発言だ。このとき、オロークの表情は敗北感に打ちひしがれていた。この男にスターの輝きを奪われたと悟った瞬間だった。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

男が焼身自殺か、トランプ氏公判のNY裁判所前

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報

ビジネス

米中堅銀、年内の業績振るわず 利払い増が圧迫=アナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story