コラム

今回は違う──銃社会アメリカが変わり始めた理由

2018年03月06日(火)15時50分

世界的に見ても、アメリカの銃犯罪の多さは異常だ。アメリカの銃犯罪による年間死者数は、他の先進国の30倍にもなる。銃所有率も極めて高い。ジュネーブにある国際・開発研究大学院で銃器に関する研究を行っているスモール・アーム・サーベイなどによれば、アメリカには人口100人当たり112.6丁の銃があるのに対して、日本はわずか0.6丁だ。アメリカの次に多いセルビアでさえ75.6丁、スウェーデンは31.6丁、だ。

「変化を起こす気があるのか」

適切な銃規制が行われれば、銃犯罪が大幅に減る可能性は高い。コネティカット州では、95年に拳銃の購入に免許取得を義務付けたところ、05年までの10年間で拳銃絡みの殺人事件が40%減ったとされる。銃が手に入りにくくなれば、銃を使った自殺も減るだろう(アメリカでは銃絡みの死亡事件の3分の2が自殺だ)。

アメリカの一般市民の大多数は、銃規制に賛成している。銃を所有する家庭でさえ、93%が銃購入者の経歴調査の厳格化を、89%が精神疾患者の銃所有禁止を支持している。

それなのになぜ、アメリカの銃規制は恐ろしく緩いのか。それは政治家(圧倒的に共和党議員が多い)が、NRAから献金をたっぷりもらっているからだ。ドナルド・トランプ大統領も、3000万ドルの献金を得ている。だから学校で乱射事件が起きても、政治家は犠牲者のために祈りをささげるだけで、何の行動も起こさないというお決まりのパターンが繰り返されてきた。

だが今回は違うかもしれない。

ダグラス高校の生徒を中心に、若者たち(その多くは参政権さえない子供だ)が率先して声を上げて、21世紀型の草の根民主主義を展開している。CNNの対話集会で、ダグラス高校3年生のキャメロン・カスキー(17)が、ルビオに挑んだ直球勝負がいい例だ。

「上院議員、あなたを見ると、AR15(半自動ライフル銃)を思い浮かべずにいられません」。カスキーはそう皮肉ると、ルビオに厳しく詰め寄った。「問題は、変化を起こす気があるのか、ないのかです。ルビオ上院議員、今ここで、今後はNRAから一切献金を受け取らないと約束してもらえますか」

会場が総立ちとなって嵐のような喝采を送ったのは言うまでもない。結局その日は、政治家として多くの場数を踏んできたルビオが、決定的な言質を与えずに乗り切ることに成功した。

だが、若者たちの勢いは失われていない。3月24日、彼らはワシントンで銃規制と学校の安全を訴える「マーチ・フォー・アワー・ライブズ(私たちの命のための大行進)」を計画している。これに感銘を受けた俳優のジョージ・クルーニーら多くの著名人が巨額の支援を申し出るなど、子供たちの熱意が大人を動かし始めている。

ジョークで政治や社会を痛烈に批判するコメディアンのスティーブン・コルベアは、「選挙法を改正するべきなのかもしれない」と、ある晩の番組で語った。「(大人がちゃんとした)銃規制を成し遂げるまで、選挙権は18歳以下限定にするんだ」

【参考記事】【歴史】NRAが銃規制反対の強力ロビー団体に変貌するまで


180313cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版3月6日発売号(2018年3月13日号)は「アメリカが銃を捨てる日」特集。銃犯罪で何人犠牲者が出ても変わらなかったアメリカが、フロリダの高校銃乱射事件をきっかけに「銃依存症」と決別? なぜ変化が訪れているのか。銃社会の心臓部テキサスのルポも掲載。この記事は特集より>

【お知らせ】
ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮情勢から英国ロイヤルファミリーの話題まで
世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story