コラム

ワクチン「3回目」戦略をどうするか

2021年11月17日(水)14時00分

アメリカでは3回目のワクチン接種がスタートした Brian Snyder-REUTERS

<ワクチン接種率の高い国、地域でも感染リバウンドが起きているので、日本も油断はできない>

新型コロナウイルスのワクチンは、接種後6カ月を経過すると免疫力が低下することから、「3回目」の接種を行う国が増えています。アメリカの場合、当初は65歳以上の高齢者や、基礎疾患のある人、医療従事者などを優先して「3回目」の接種をスタートしました。

ですが、ここへ来て拡大方針が決まり、11月16日には「18歳以上の全員」について、2回目接種から「6カ月」を経過した時点で「3回目」が接種できることになりました。

この「全員に3回目」という方針ですが、背景として2つの問題があります。

1つは、ここへ来て再び感染数がジワジワ拡大しているという問題です。私の住むニュージャージー州の場合は、ここ数カ月、1日の新規陽性者は1000人程度で増えもせず、減りもせずという感じでした。また、州政府の発表する「実効再生産数(1人が何人に感染させたか?)も0.9から0.98といったレベルであり、落ち着いた動きを見せていました。

ですが、先週あたりから新規陽性者は1300といった水準の日が増え、また実効再生産数も1を超えるようになってきました。一方で、もっと北のバーモント州では、ワクチンの接種率が72%と「全米一」を誇っているにもかかわらず、ここへ来て感染者が急増しています。全米の数字でも先週は先々週と比較すると、新規陽性者が11%増となっているのです。

欧米での感染リバウンド

この増加の原因としては、1)ワクチン未接種者の間での感染拡大、2)気温の降下による季節要因、3)ほぼ完全な経済社会活動の再開、といった要素が複合した結果ということが言えますが、これに加えて、4)3月以前に接種した人の免疫力低下、という問題も影響しているという考え方があります。

いずれにしても、アメリカでも欧州でも「新型の変異株」が出現したわけでもないのに、感染がリバウンドしているという事実は重く受け止める必要があると思います。

これを受けて、ワクチン肯定派の人々の間では、早く「3回目を」という要望があります。また大局的に見ても、高齢者の免疫力を維持して、次の大きな「波」(アメリカにとっては第5波)を防止するためにも、「3回目」の対象が全員に拡大されたと言えます。

もう1つの問題としては、WHOにしても、米CDCにしても、「3回目」よりは、「1回目、2回目」の接種率をとにかく向上すべきであり、限りあるワクチンをどんどん「3回目」に投入すべきでは「ない」という考え方がありました。

こちらの問題ですが、先進国の場合は「接種率があるレベルで頭打ちになる」現象が各国で見られており、そこからは、政府が強く推奨してもなかなか接種が進まないわけです。欧州の一部では、かなり強めの「強制」に踏み切っていますが、さすがに「ワクチン問題による政治的分断」が問題になっているアメリカの場合は、そこまではできません。ですから、かなりの量を「3回目」に回せるようになってきたのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story