コラム

アフガン政権崩壊、2つの懸念

2021年08月18日(水)15時00分

2つ目は、中国との関係です。7月のタリバン幹部の訪中は成功し、今回の政変でも中国は素早く新体制を歓迎しています。「3人委員会」の中にはヘクマティヤール元首相などイラン人脈が入っており、こうなると新疆=アフガン=イランが結ばれて「一帯一路」の経済ルートが強固になる、加えてアフガンの鉱物資源が正規の貿易で中国の手に渡るというシナリオが現実に近づくことになります。

そうなると、90年代にクリントン政権が一度描いて捨てた青写真、つまりタリバンを承認してパイプラインを通しアフガン経済を安定化するという案よりも、さらに強力な経済提携が成立するかもしれません。

ですが、中国の影響力をタリバン主導のアフガニスタンが素直に受け入れるかは疑問です。80年代のソ連侵攻に際しては、「社会主義=無神論の国」に対する激しい反発心がムジャヒディーン(聖戦士=反ソ連ゲリラ)の動機になりました。現在の中国の場合は「無神論」どころか宗教を敵視しており、イスラム法では究極の禁忌であるムスリムへの棄教を促進しているとも言えます。そこに彼らの嫌う拝金主義が乗っているとなれば、完全に水と油です。

列強の「二の轍」を踏む?

現在「3人委員会」の中に入っているヘクマティヤール元首相は、往年の「聖戦士」の生き残りであり、イランに亡命していたのも、節を屈してタリバンと提携したのも、宗教的な原理主義を実現するためかもしれません。

また、女性の人権についても、アジアでも進んだ国である中国は、いくら「100%ビジネス上の打算の関係であり相互に内政不干渉」だとしても、タリバンとの考え方の違いはどこかで摩擦となる可能性はあると思います。中国が激しく嫌っている麻薬ビジネスの問題もあります。

仮に中国がアフガンでのトラブルに巻き込まれるようですと、大英帝国、ソ連、アメリカと同じように「帝国の墓場」に引きずり込まれる危険もあります。そうなると世界経済への影響は甚大となります。

この2つの懸念が取り越し苦労であることを祈りますが、まずは米軍への協力者などが8月31日の期限までに円滑に出国できることが先決です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報

ビジネス

米中堅銀、年内の業績振るわず 利払い増が圧迫=アナ

ビジネス

FRB、現行政策「適切」 物価巡る進展は停滞=シカ

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story