コラム

「菅、岸田、石破」と「トランプ、バイデン」で日米関係はどうなる?

2020年09月03日(木)16時00分

その場合は、ポスト安倍の3名には慎重な姿勢が求められると思います。菅氏であれば、安倍政権からの連続性でトランプとの良好な関係を模索したくなるでしょう。岸田氏であれば、オバマのアメリカとの外交の延長でトランプに対し筋を通そうとするかもしれません。石破氏の場合は「不道徳なトランプ」には屈しないという姿勢を自分の支持者に見せたいという誘惑に駆られるかもしれません。

そのいずれも簡単ではありません。上策というのは、ひたすら時間を稼ぐことです。与党共和党の中にも深刻な離反を抱えたトランプは、2期目に入れば早期に「レイムダック化」するはずです。それを待ち、もうこれ以上は自己流の外交はできないし、しないという状況になるまで、日米関係をトランプの政治課題にされないようにするのが得策でしょう。次期首相として、性急にトランプとの関係構築や交渉に「入らない」ことが肝要かと思います。

また岸田氏の場合は、過度に財政規律を追い求めるとトランプ流の円高ドル安戦略のターゲットとなる危険が、また石破氏の場合は、防衛通というアピールが過ぎると高額な装備を売りつけられる危険が気になります。

一方で、バイデン政権の場合は、特に東アジア外交についてはオバマ外交の延長で対応してくると思います。中国に関してはやがて政冷経熱となり、日韓関係は自由陣営内の「味方同士」として関係改善を求めてくるでしょう。問題は、中国と韓国という「相手」がオバマ時代とは変質していることです。ですからオバマ時代の「リバランス」である種の均衡を志向していた状態を再現するのは簡単ではありませんが、それこそ日米の連携で対応することになるのだと思います。

バイデン政権の場合であれば、ハリス氏が副大統領になりサンフランシスコのリベラル政治家グループが力を増してきますし、党内左派の若手が発言力を拡大してくると思います。その場合は、女性の人権改善を加速させたり、歴史修正傾向の抑制、環境外交の強化などをしっかり行って、日米の緊密な関係を維持すべきです。これらの点については、各総裁候補は良く承知していると思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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