コラム

テキサスの落選候補がなぜ民主党の期待の星なのか

2018年11月13日(火)17時40分

オロークは現職のテッド・クルーズ上院議員に僅差で肉薄した Mike Segar-REUTERS

<テキサス州上院選で現職のテッド・クルーズに敗れた民主党候補のオロークが「ヒーロー扱い」されているのは、本人のキャラクターが魅力的というだけではなく......>

アメリカの中間選挙は、まだフロリダ州の上院選と知事選で決着がついておらず、2000年大統領選の「ブッシュ対ゴア」対決の際にも行われた「再集計」が始まっています。その一方で、僅差だったアリゾナ州では、共和党候補が「敗北宣言」を行ったために民主党新人の勝利が確定し、上院の議席数は「共和党52対民主党47(残1=フロリダ)」となりました。

選挙が終わると同時に、アメリカの政局は2020年の総選挙、つまりトランプ大統領が「2期目」を目指す大統領選(と同時に行われる上下両院の選挙など)に関心が移っています。大統領は、とにかく再選のためには必死ですし、民主党はホワイトハウスを奪還するために必死になる、その前哨戦が始まったと言えます。

そんな中で、奇妙なことに、今回の上院選で新人としてチャレンジして敗退した候補が、依然として「大統領候補への待望論」を語られたり、「落選したのに殊勲者」という評価をされています。

それは、テキサス州で現職のテッド・クルーズ議員に敗北したビト・オローク候補です。オローク候補は現在46歳、民主党の下院議員を3期務めていますが、その前は故郷のテキサス州エルパソで、スタントン・ストリート・テクノロジー社という会社を起業して経営していました。

では、どうして今回の上院選で「落選したのにヒーロー」扱いされているのか、それも大統領候補とか副大統領候補に取り沙汰されているのかというと、一つには本人のキャラクターが魅力的ということがあります。

ですが、それ以前の問題として選挙区の事情があります。テキサス州は保守の地盤ですが、1990年代までは2議席ある上院議員のうち1つは、ロイド・ベンツェンという民主党の長老が占めていました。ですが、93年にその議席を共和党が奪って以来、25年にわたって上院の議席は常に共和党が占めてきています。

また、大統領選についていえば、1980年のレーガン1期目以来、2016年のトランプに至るまで36年間に渡り、テキサス州は「すべて共和党候補を選出」してきています。例えば、2016年の場合は、

▼ドナルド・トランプ......469万票(52.1%)
▼ヒラリー・クリントン......388万票(43.1%)

と大差で共和党が勝っています。ところが、今回の上院選では、

▼テッド・クルーズ......424万票(50.9%)
▼ビト・オローク......402万票(48.3%)

という僅差になりました。これはアメリカ政治にとって画期的な事件です。オローク候補は、負けたのですが20万票差(2.6%)まで共和党現職に肉薄したからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story