コラム

終章 現代アートの現状と未来

2017年07月14日(金)10時00分
終章 現代アートの現状と未来

Venice Art Biennale 2017: Viva Arte Viva - Arsenale-Youtube

この連載も今回で終わりである。これまでに述べたことをおさらいし、後回しにしていたテーマについて論じ、さらに、現時点における現代アートの問題を列挙してみたい。

アートワールドの現状

・アートワールドは矛盾に満ちている
ヴェネツィア・ビエンナーレに典型的に見られるように、アートワールドは本音と建て前を使い分けている。狭義のアートワールドはアートマーケットに依存していて、そのマーケットはグローバル資本主義に支えられている。アーティスト、キュレーター、批評家、ジャーナリストなどの多くはリベラルもしくは左翼であり、彼ら彼女らはグローバル資本主義を批判するが、実は日々の糧をそこから得ている者が少なくない。
【参考記事】ヴェネツィア・ビエンナーレとは何か(1):水の都に集まる紳士と淑女


Venice Art Biennale 2017: Viva Arte Viva - Arsenale

・アートマーケットは加熱する一方である
世界的に経済格差が拡大するのに比例して、スーパーコレクター同士の争いは激化している。リーマン・ショックのような、瞬間的・短期的な冷え込みが今後もあったにせよ、中長期的に見て世界経済が成長する限り、経済とリンクしたアートマーケットが縮小することはない。希少な作品の奪い合いは、当然ながら価格の高騰をもたらす。
【参考記事】スーパーコレクターズ(1): 億万長者の狩猟本能

・美術館とアーティストは様々な圧力に曝されている
全体主義的国家は言うに及ばず、民主主義諸国でも政府が文化芸術の内容に干渉したり、表現を規制したりすることがある。どの国も表面的(法的)には表現の自由を認めているが、助成金など経済的支援の停止を仄めかすなど、水面下での圧力が存在する。美術館の内部では、管理職が保身のために現場やアーティストに展示の修正を求めるケースがある。昨今は現場スタッフによる「忖度」や、アーティストの「自己規制」も見られる。
【参考記事】危うし、美術館!(1): 香港M+館長の電撃辞任は中国の圧力か

・作品の特権的な私有化や囲い込みが進んでいる
特に米国において、富裕なコレクターが開いた新興私立美術館が、公的助成を受けながらも実質的に一般公開されていないことが問題視されている。米国以外でも、財閥や企業が保有する韓国のリウムのような美術館が、コレクションを政治的に利用している疑いがある。公共財である芸術作品を私物化しようとするひと握りの人々によって、文化遺産が広く共有されず、アートシーンが沈滞化してゆくことが懸念される。
【参考記事】危うし、美術館!(3):ジコチュウ私立美術館の跳梁跋扈

・巨大美術館はポピュリズムに陥り始めている
ニューヨーク近代美術館(MoMA)などの巨大美術館が、アート以外の領域に手を広げ始めている。それはまだしも、テート・モダンは展示面積の拡大を機に、「他者と過ごす社会的・社交的な場」を目指すという方針を明らかにした。公的な文化予算の減少を補う民間スポンサーからの支援増大に伴い、アートとはほとんど無関係のタイアップ展が増える可能性がある。大衆に迎合する巨大美術館はテーマパーク化しつつある。
【参考記事】危うし、美術館!(4):MoMAとテート・モダンの迷走1

・批評や理論は影響力を失っている
マーケットが巨大になるにつれて、批評の影響力が格段に低下している。『アートフォーラム』などの専門誌は広告で占められ、業界人でさえ批評を読まなくなっている。20世紀末以降、アーティストの「運動」や「流派」はほとんど誕生せず、それが批評の停滞を招いている面もある。現代思想や哲学に依拠するキュレーターや作家はいるとはいえ、美学やアート理論はボリス・グロイスら一部の書き手を除いて衰弱している。
【参考記事】ジャーナリズムと批評(1):絶滅危惧種としての批評家

プロフィール

小崎哲哉

1955年、東京生まれ。ウェブマガジン『REALTOKYO』『REALKYOTO』発行人兼編集長。京都造形芸術大学大学院学術研究センター客員研究員。2002年、20世紀に人類が犯した愚行を集めた写真集『百年の愚行』を刊行し、03年には和英バイリンガルの現代アート雑誌『ART iT』を創刊。13年にはあいちトリエンナーレ2013のパフォーミングアーツ統括プロデューサーを担当し、14年に『続・百年の愚行』を執筆・編集した。

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