最新記事
シリーズ日本再発見

平成の若者「〇〇離れ」と、メーカーの「好消費」開発

2018年11月01日(木)11時30分
高野智宏

SeanPavonePhoto-iStock.

<「嫌消費」世代と呼ばれる若者たちの間で「酒・たばこ・車」は、確かに消費が落ち込んでいる。しかし、明るい兆しがないわけではない>

平成が終わろうとしている。激動の昭和を経て30年。生活や仕事を取り巻く環境が移り変わるなか、若者の嗜好にも変化が起こった。かつて多くの国民が日々の疲れを癒やし、ストレスを発散し、そして趣味として楽しんだ「酒・たばこ・車」離れが今、主に20~30代の若者たちの間で進んでおり、多くのメディアでも取り上げられている。

実際、若者世代において「酒・たばこ・車」の消費は、どれほどの落ち込みを見せているのか。

まずは、酒。国税庁の今年3月の「酒レポート」によれば、成人1人あたりの酒類消費数量は、1992年の101.8リットルをピークに減少を続け、2016年には80.9リットルにまで減少。

とりわけ若者層の減少率が高く、消費者庁による2017年の「消費者白書」では、単身30歳未満男性の1カ月あたりの酒類支出額が、1999年の1737円に対し2014年は1261円。約30%の下げ率となっている。

たばこに至っても、その傾向は顕著だ。厚生労働省が今年9月に発表した2017年「国民健康・栄養調査」によると、男性の喫煙率は1986年の59.7%から、2017年は29.4%へと半減。統計後、初めて喫煙率が3割を切ったことが大きく報道された。

また、なかでも20代男性では、1986年の67.2%から2017年では26.6%にまで減少し、若者のたばこ離れが露わとなった。男性の喫煙率が8割以上にも上っていた1965年と比べると、隔世の感を禁じ得ない。

レジャーやステイタスの象徴であった車も同様だ。この4月に内閣府から発表された「消費動向調査」によれば、世帯主年齢階層別の乗用車普及率は、29歳以下の場合、2005年の67.1%から2018年には56.6%へと低下している。

意外に高い数値と感じるかもしれないが、これは全国を対象とした調査だ。交通機関が発達し車の所有が困難な住宅事情のある首都圏であれば、より低い数値になるだろう。加えて、前出の「消費者白書」でも、単身30歳未満男性の1カ月あたりの自動車等関係費が1999年の1万8814円から2014年には7351円へと大幅に減額している。

自己肯定感を得られず、同調圧力が強い世代の消費行動

これら「若者の〇〇離れ」の要因は、やはり「失われた20年」の引き金となったバブル崩壊後の長きに渡る経済低迷なのか。「そうした経済状況下で多感な10代を過ごした人たちへの、世代交代が大きな要因となっています」と言うのは、ジェイ・エム・アール生活総合研究所を率いる、マーケティングコンサルタントの松田久一氏だ。

松田氏は、そんなバブル後世代を「嫌消費」世代と命名し、著書の『「嫌消費」世代の研究――経済を揺るがす「欲しがらない」若者たち』(東洋経済新報社)で、彼らの消費動向から垣間見えたマインドを詳細に検証してみせた。

「嫌消費世代は10代の頃、バブル崩壊により世の中の価値観がひっくり返った経験をしています。また、ゆとり教育により個性を重んじられましたが、半面、いじめの標的とならないよう、周囲に対する同調圧力も強い。さらに、就職活動では何十社受けても内定が取れない超氷河期でした」と、松田氏は説明する。

そのため自己肯定感を得られず、強い劣等感を持ち、仲間や会社というものに不信感を抱いているのだという。そんな嫌消費世代は現在30代のバブル後世代を指すが、松田氏によれば、20代中盤~後半の世代もその意識や傾向を引き継いでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中