コラム

米議会に侵入「Q-Anonの祈祷師」とは何者か──トランプ支持をやめない日本人の罪

2021年01月12日(火)19時10分

連邦議会襲撃で「ヒーロー」となったJ.A.チャンスレー氏(写真は2021年1月6日、ワシントン) STEPHANIE KEITH-REUTERS


・アメリカの多くの心理学者はトランプ大統領に誇大妄想の特徴を見出している

・連邦議会に侵入し、これを占拠したデモ隊にも、その傾向がうかがえる

・それらの尻馬に乗る日本のトランプ支持者は「愛国」を口にしながらも海外の同胞に想いが至っていない

アメリカ史に残る汚点となった連邦議会暴動で議事堂に侵入したデモ参加者には、夢の国の住人としか呼べない人物さえ珍しくない。

Q-Anonの祈祷師とは

アメリカ当局は11日、5人の死者を出した1月6日の連邦議会暴動で議事堂に侵入したトランプ支持のデモ参加者の一人、「Q-Anonの祈祷師(シャーマン)」と呼ばれるJ.A.チャンスレー氏を起訴したと発表した。

歯止めの効かない群集心理丸出しの暴動の中でも、Q-Anonの祈祷師ことチャンスレー氏は、その独特の風貌で異彩を放っていた。牛と思われるツノをつけた熊皮のヘッドギアをかぶり、裸の上半身にはタトゥーが施され、顔を赤・白・青(星条旗の色)でペイントし、あげくに2メートル近い長さの槍をかついでいたからだ。

確かにアメリカ先住民のシャーマンを思わせるいでたちではある。ハロウィンのパーティーならヒーローになれるかもしれない。

しかし、問題は彼がハロウィンパーティーではなく連邦議会暴動でヒーローの一人になったということだ。本人はいたって真面目だったのかもしれないが、だったらなおさら始末が悪い。

夢の国の住人たち

彼らの自己認識はともかく、第三者的にみればチャンスレー氏をはじめデモ参加者のしたことは、「アメリカがユダヤ人や諜報機関に乗っ取られている」というQ-Anonの陰謀論を信じ込み、「選挙で不正が行われた」というトランプ大統領の真偽の疑わしい主張を真に受け、いわば勝手に愛国心や正義感に燃えた挙句、アメリカ史に残る汚点を残したにすぎない。

しかし、チャンスレー氏は起訴前のBBCのインタビューに対して、暴動の日を「美しい日だった」と回顧している。客観的な情勢判断と自分の思い込みのギャップを理解しようとしないその態度は、誇大妄想の気配さえ感じさせる。

チャンスレー氏ほど際立った風貌でなかったとしても、多くのデモ参加者についてもほぼ同じことがいえる。

連邦議会暴動での逮捕者はすでに80人以上にのぼり、逮捕・起訴ともに今後さらに増える見込みだが、捜査は比較的簡単だろう。なぜなら、議事堂を占拠した際にデモ参加者の多くが、議員の椅子にふんぞり返って座ったり、議会の備品を勝手に持ち出したりする様子の動画をソーシャルメディアにあげていたからだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国「経済指標と国防費に透明性ある」、米司令官発言

ワールド

ジュリアーニ氏らアリゾナ州大陪審が起訴、20年大統

ビジネス

トヨタ、23年度は世界販売・生産が過去最高 HV好

ビジネス

EVポールスター、中国以外で生産加速 EU・中国の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story