コラム

謎多きスリランカ同時多発テロ──疑問だらけの事件を振り返る

2019年04月23日(火)18時00分

コロンボの教会での爆弾テロで親戚をなくした女性(2019年4月21日) Dinuka Liyanawatte-REUTERS

<犯行が国内のイスラム教過激派のものとするなら、なぜスリランカで多数派の仏教徒を狙わなかったのか。辻褄が合わないのはこれだけではない>


・スリランカで発生した同時多発テロ事件に関して、当局はイスラーム過激派の犯行という見方を強めている

・しかし、そこには数多くの疑問が残り、事件には不自然な点が目立つ

・政府の対応にも不透明な点が目立つため、この観点からも事件の究明が求められる

スリランカで発生した爆弾テロ事件は、いくつかの謎を抱えている。これまでに分かっていることからは、このテロ事件の奇妙さが浮き彫りになる。

誰が、なぜ

4月21日、インド洋に浮かぶスリランカの最大の都市コロンボなどで、キリスト教会や高級ホテルなど6カ所を狙ったテロ事件が発生し、現地在住の日本人高橋香氏を含め200人以上の死者を出す惨事となった。

この事件の最大の謎は、誰が、なぜ、この犯行に及んだかということだ。

スリランカ当局は国内のイスラーム過激派による自爆テロとみて捜査している。

イースターの期間中のキリスト教会や、外国人が数多く滞在する高級ホテルが標的になった点、さらに自爆テロとみられる点など、イスラーム過激派の関与をうかがわせる条件は揃っている。さらに、22日の記者会見でウィクラマシンハ首相は、イスラーム過激派National Thoweeth Jama'athが爆弾テロを計画している情報を警察庁が今月9日に把握していたことを明らかにしている。

これに関連して、イスラエルメディアなどは、現地の著名な説教師ザフラン・ハーシム師がキリスト教徒や仏教徒への憎悪を煽り、自爆したと報じている。

イスラーム過激派の関与?

しかし、これらにはいくつかの疑問符がつく。

まず、これまでスリランカでは、人口の約70パーセントを占める仏教徒が、人口の約9パーセントと少数派ムスリムを迫害する状態が常態化しており、その混乱から昨年3月には非常事態が宣言されるに至った。しかし、これまでキリスト教徒はこの対立と基本的に無関係だった。

念のために付言すれば、全国キリスト教福音主義協会によると、スリランカではキリスト教会やキリスト教徒(人口の約6パーセント)への襲撃やヘイトが増えており、2018年だけで86件が報告されている。ただし、その加害者の多くは仏教徒とみられている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、利下げ前に物価目標到達を確信する必要=独連

ワールド

イスラエルがイラン攻撃なら状況一変、シオニスト政権

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ビジネス

中国スマホ販売、第1四半期はアップル19%減 20
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story