コラム

世界に広がる土地買収【前編】──中国企業による農地買収を活かすには

2018年03月08日(木)15時50分

つまり、中国政府はマネーゲームともなる海外不動産の買収を制限しながらも、「実際の生産活動をともなう」土地の買収に関しては、むしろ熱心になっているといえます。実際、中国の海外投資に占める農業の割合は増加する傾向をみせています。そこには、いわゆる「食糧安全保障」や、米国など先進国の大企業が握る食糧の国際市場に割って入る目的があるとみられます。

オーストラリアの規制

農地買収の対象にはアフリカや中南米の開発途上国だけでなく、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、米国なども含まれます。その結果、例えばオーストラリアでは2017年段階で1440万ヘクタールの農地を中国資本が所有しているといわれ、これは同国における耕作可能地の2.5パーセントにあたり、外国資本による土地保有の約25パーセントを占めます。

中国では自然豊かなイメージからオーストラリア産食品の人気が高く、同国産ワインの40パーセントを輸入しています。中国企業がオーストラリアの農場でこれらを生産することは、企業にとってMade in Australia というブランドを手に入れられる一方、中国にとって食糧を安定的に調達するルートを確保することにつながります。

しかし、中国企業による農地買収があまりに急速なことは、「投資目的の宅地買収が活発化すれば、住宅価格を押し上げることになりかねない」、「自国の食糧供給を脅かしかねない」といった懸念を生み、外国人の土地所有に対する規制の強化につながっています

オーストラリアの場合、2017年に外国人の宅地購入(その87パーセントは中国人)にかかる税金が、最大で購入価格の8パーセントに引き上げられ、それに続いて2018年2月にはエネルギーとともに農業関連の土地購入に関する規制が強化され、農地を転売する場合にはオーストラリア人に優先的に販売されることなどが定められました。

これまで中国企業による土地買収が目立っていたオーストラリアで規制が強化されたことは、投資対象を拡散させたとみられます。それにつれて、冒頭で紹介したフランスなど、ヨーロッパ諸国のなかにも規制を強化する動きが広がっています。

日本における土地買収

ここで日本における土地買収についてみていきます。先述の中国の海外不動産投資サイトの情報によると、2017年度の問い合わせで日本は第8位。日本の場合、外国人の土地所有が、少なくとも法的には基本的に自由であることが、これを促しているとみられます。

2017年7月、香港のサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙は「香港の投資家を魅惑する日本の不動産市場」と題するコラムを掲載。そこでは、「外国人が建物を所有できても土地を所有できないタイやフィリピン、外国人の土地所有に新税が導入されたオーストラリアやカナダと異なり、日本では外国人の土地所有が法的に規制されていないこと」が強調されています。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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