コラム

アフリカの子どもに銃を取らせる世界(2)中国「一帯一路」の光と影──南スーダン

2018年03月02日(金)17時00分

英国地質調査所によると、2015年段階で南スーダンの産油量は730万トンで、これはアフリカ大陸第9位。南スーダンの輸出品はほぼこの原油に限られており、2014年以降その輸出に占める中国の割合は、ほぼ99パーセントに達しています。そして、南スーダンの油田の大半は政府・軍に管理されています。

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つまり、原油と、そのほぼ全てを輸入する中国は、南スーダン政府にとって「カネのなる木」なのです。言い換えると、中国による原油輸入は、とりわけ非人道的な行為や子ども兵の徴用が目立つ南スーダン軍や政府系民兵の活動を間接的に支えているといえます。

アフリカ大陸とりわけ南スーダンを含む東アフリカは、中国が掲げる、ユーラシア大陸からインド洋をカバーする経済圏「一帯一路」構想の射程範囲内です。「一帯一路」のもと加速する中国の進出は、例えばインフラ整備を急速に進めている他、アフリカで最も雇用を生むなど、現地にとって「光」の側面もあります。スタンダード銀行のエコノミスト、ジェレミー・スティーブンスによると、中国は30,000人の雇用をアフリカで生んでおり、これは他国を凌ぐ水準と指摘します。

ただし、そのような「光」の一方で、少なくとも南スーダンの場合、「一帯一路」で加速する中国の石油輸入の増加は、結果的に残虐行為の目立つキール派を財政的に支えているのです。

変わったこと、変わらないこと

油田開発の見返りに現地政府を支援することで、結果的に中国がアフリカの紛争を激化・長期化させることは、これまでにもあったことです。2003年に始まったスーダンのダルフール紛争はその典型です。その結果、2000年代に中国は「石油のために深刻な人道危機を顧みない国」という批判を呼んだのです。

この際、中国は「内政不干渉」を掲げ、ダルフール紛争を「スーダンの内政」と強調することで、自らの立場を正当化しました。しかし、アフリカからも高まる懸念を受けて、「大国としての振る舞い」や「アフリカへの貢献」を目指す中国は、南スーダン内戦ではダルフール紛争の際と異なる対応をみせてきました。

例えば、内戦が始まった直後から中国は、周辺各国とともに南スーダン内戦の各当事者に停戦を呼びかけてきました。また、停戦監視などの任務にあたるため国連が派遣する国連南スーダン派遣団(1万7140人)に中国は1035人の人員を派遣しており、これは上から6番目の規模にあたります。さらに、南スーダンへの人道支援も行っていることから、中国系メディアでは従来の「不干渉」からの変化を強調する論調が一般的です。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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