コラム

南北「五輪外交」に期待できない理由―米中「ピンポン外交」との対比から

2018年02月09日(金)17時45分

他方、「圧力強化」を前面に掲げる米国トランプ政権は、北朝鮮を孤立させるため、北朝鮮と国交を維持するロシア、中国、ドイツなどへも関係を断つことを要求。これも交渉ルートを狭める効果があることは、言うまでもありません。

合意できる妥協点の欠如

最後に、最も大事なことは、米朝間で妥協できる着地点が見出しにくいことです。

米国トランプ政権は「北朝鮮の非核化」を要求しています。しかし、これこそ北朝鮮が絶対に譲れない点です。核ミサイルをなくした場合、北朝鮮の交渉力はゼロになるからです。米国を信用しない北朝鮮が、自らを守る最終手段を自発的に手放すことは、ほぼ想定できません。その意味で、プーチン大統領の「北朝鮮は草を食べてでも核を手放さない」という指摘は至言といえます。

以前からロシアと中国は「米韓軍事演習の全面中止」と「北朝鮮の核実験凍結」をセットにした仲介策を提案していました。この提案は現状において最も穏当な提案ともいえますが、「核保有を最終的に認める」という保障がないため、2017年10月に北朝鮮は拒否。同時に「核保有を最終的に認めない」という確約でもないため、米国も平昌五輪の期間中は米韓軍事演習を行わないものの、五輪後にこれを再開する構えです。

つまり、韓朝間で融和ムードが高まったとしても、少なくとも公式の声明から読み取れる限り、米朝間では「折り合える妥協点」がないことには何も変化がないのです。この点で、共有できるゴールが前提としてあり、米中が関係改善のきっかけを模索していたなかで行われたピンポン外交とは異なります。

五輪外交の先にあるもの

こうしてみたとき、五輪外交によって米朝関係の大きな構図が変化するとは見込めないといえます。

とはいえ、先延ばしにすればするほど、制裁の効果が徐々に出てくるのと同時に、北朝鮮に核やICBMの能力を向上させる時間を与えることにもなります。

もし米国がこれまでの公式の方針を翻して、北朝鮮の体制の維持と核保有を認めるというなら、それで北朝鮮は納得し、一方で米国は直接衝突の危機を回避できるかもしれません。外交は本音と建前が錯綜する世界で、それまでの公式の方針があっけなくひっくり返ることがあるのは、米中国交正常化の例からも分かります。

しかし、この場合、米中国交正常化の時と同様、あるいはそれ以上に、蚊帳の外となった日本政府から反発が出るだけでなく、「非合法でも核開発さえ成功させれば結局米国は認めざるを得ない」という先例をイランやシリアなど反米的な国に示すことにもなりかねません。

いわば米国トランプ政権はこれらの政治的リスクと、北朝鮮と正面から衝突するリスクのどちらが大きいかの判断を迫られているといえます。少なくとも、緊張緩和は望ましいものの、五輪外交だけで北朝鮮情勢に大きな転換が生まれると期待できないため、五輪後に再び緊張が高まることは覚悟しておく必要があるといえるでしょう。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

プロフィール

六辻彰二

国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。

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