コラム

南北「五輪外交」に期待できない理由―米中「ピンポン外交」との対比から

2018年02月09日(金)17時45分

つまり、台湾に関して米中は「譲れない最低限の立場を守れた」という形式をお互いに保障することで処理したのです。言い換えると、米中はあくまで関係改善を優先させたのであり、このゴールを共有できたからこそピンポン外交を端緒とする協議が成立したといえるでしょう。

五輪外交のもろさ

このようにピンポン外交は多くの条件に支えられて成功したといえます。逆に言えば、これらの条件がなかった場合、名古屋の卓球大会に中国選手団が参加しただけで米中の国交が正常化したとは考えられません。これに鑑みると、今回の五輪外交はもろいものと言わざるを得ません。

第一に、韓国あるいは日米韓と北朝鮮には、1960年代末の米国にとってのベトナム戦争や中国にとってのソ連の脅威に匹敵する「他に優先すべき緊急の課題」はほとんど見当たりません

強いていえば、米国にとっての対テロ戦争やイラン政策はそれに当たるといえます。しかし、北朝鮮のミサイルが米国本土に到達する能力をみせるだけでなく、北朝鮮がイランなどにミサイルを輸出している以上、米国にとって「他の問題のために北朝鮮と妥協する」という選択は小さくなります。「現体制の存続を米国に認めさせる」ことを最優先にする北朝鮮にとってはなおさらです。

北朝鮮にとっての「本命」はあくまで米国で、さらに米朝間の利害にこの構図がある以上、韓国と北朝鮮の間で融和が進んでも、それだけで米朝間の対立を緩和させる効果は期待できません。

ルートの狭さ

第二に、韓国と北朝鮮の間の協議が行われても、実質的な当事者である米朝の実務的な協議が、これまでほとんどなかったことです。

2017年12月、米国務省と北朝鮮政府の関係者が北京で非公式に会談。対話再開の条件などを協議したと伝えられています。

このように現在の米朝も協議の機会を設けているものの、他方で15年間に136回と年平均9回の非公式会合を重ねていた1971年以前の米中と比べると、その頻度は必ずしも高くありません。

さらに、米朝をつなぐルートは、1971年以前の米中と比較しても制約されています。金正恩第一書記は中国政府と関係が深かった、叔父の張成沢を2013年12月に「粛清」。その後、最も関係の深い国である中国とさえ距離をおいてきました。その結果、現在の北朝鮮政府の要人には、海外と深い付き合いをもつ者はほとんどいません。

プロフィール

六辻彰二

国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。

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