米中貿易戦争でつぶされる日本企業

ファーウェイに対する制裁のとばっちりを受ける日本企業 Gonzalo Fuentes-REUTERS
<ファーウェイに対する制裁のはずが、ファーウェイにメモリーを提供しているキオクシア(旧東芝メモリ)や画像センサーを提供しているソニーが苦しんでいる>
今年9月28日にキオクシアホールディングスが東京証券取引所への上場を当面延期することを発表した。
キオクシアという企業名に聞き覚えのない読者のために急いで補足しておくと、この会社はもともと東芝のICメモリー事業部であったものが2017年に分離されてできた。
東芝は2006年に原子力発電設備の老舗メーカーである米ウエスチングハウスを6000億円で買収した。当時、地球温暖化問題の解決につながるとして再評価されていた原子力発電の将来に賭けた決断であった。しかし、そうした期待は2011年の東日本大震災によって起きた福島第一原発の大事故で一気にしぼみ、東芝は一転して大きな負の遺産に苦しむようになる。
東芝の経営陣は経営悪化の実態を隠すために利益の粉飾に手を染め、水増し額は7年間で2306億円に達した(小笠原啓『東芝・粉飾の原点』日経BP社、2016年)。のちにこれより2桁少ない金額の支出予定を有価証券報告書に記載しなかったという嫌疑で日産のカルロス・ゴーン会長(当時)が逮捕されたが、投資家の目を欺いた点ではその何十倍も悪質な東芝の巨額粉飾に対しては、結局誰も刑事責任を問われていない。
3カ国連合のキオクシア誕生
粉飾のベールをはぎ取ってみると、東芝は倒産寸前の状態にあった。倒産を回避するために東芝はリストラと事業部の切り売りを進めた。東芝にとっての稼ぎ頭は電子デバイス部門で、2015年3月期には同部門が全社の営業利益(1704億円)を上回る2166億円の利益をあげていた。この部門にはフラッシュメモリーという強力な製品があった。NAND型フラッシュメモリーは東芝の社員が発明したもので、いまでこそサムスン電子に世界トップの座を譲り渡したものの、なお2割前後の世界シェアを有している。
NAND型フラッシュメモリーはいまや東芝にとってのみならず日本の半導体産業にとってもただ一つだけ世界で戦える製品となってしまった。かつてDRAMで世界の8割を制するなど世界一の生産額を誇っていた日本の半導体産業は、今は見る影もないほど衰退したが、NAND型フラッシュメモリーだけはかつての栄光を保っている。
しかし、その虎の子を擁するICメモリー事業部を東芝は2018年に米投資ファンドのベイン・キャピタルを中心とする企業コンソーシアムに部分的に売却した。会社を救うための現金を得るには最も高く売れる事業部の株を売らざるをえなかったのだ。予定では2020年10月に、キオクシアホールディングスと名前を変えた元東芝のICメモリー事業を株式上場し、韓国SKハイニックスも資本参加して、日本(東芝とHOYA)、アメリカ(ベイン・キャピタル)とSKハイニックスが出資する企業に生まれ変わるはずであった。そして上場によって調達した資金を設備投資に充て、首位のサムスン電子を追尾するつもりであった。
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