米中新冷戦でアメリカに勝ち目はない
以上のように、アメリカ政府はファーウェイら中国のハイテク企業を目の敵とし、権限が及ぶ範囲はもちろんのこと、他国の権限に属することにまで圧力を加えることで締めあげようとしている。
このうち、中国製の通信機器を通じて情報が抜き取られる、という疑惑についてであるが、本来、情報の漏出を防ぐ責任は通信ネットワークを運営する通信事業者にあるはずである。情報漏出を防ぐためには、漏出が起きた時に政府が通信事業者を罰するのが有効であると思う。通信の専門家でもない政治家が「中国製の機械は危ないから使うな」と命令すれば、通信事業者は中国製を使いさえしなければいいんでしょと考えて、かえって情報の漏出防止に対して必要な対策を怠る危険性がある。
日本政府は2018年12月に民間の通信事業者らに情報漏出や機能停止の懸念がある情報通信機器を調達しないでほしいと要望した。字句通りにとらえるならば、この日本政府の対策の方がアメリカよりも適切である。
中国製品は危険なので追放したら安心だ、という論法は、2008年1月に日本で起きた「毒ギョーザ事件」に端を発する中国産食品追放運動を思い出させる。当時は、スーパーの棚から中国産と表示された食品が軒並み下ろされ、中華料理屋の入り口には「当店は中国産の材料を使っていませんので安心です」という貼り紙がされた。
東西冷戦下「ココム」の枠組み
いうまでもなく、中国産は危険だから追放し、国産は安全だと信じるのは、偽りの安心をもたらすだけで、安全はもたらさない。国産だからといって細菌や寄生虫などへの警戒を怠れば大変なことになる。実際、2013年12月に日本の冷凍食品工場で日本人の従業員が10回以上にわたって食品に農薬を故意に付着させる事件があり、全国で3000人近くの人々がそれを食べて食中毒になった。国産だから安心だという慢心による手痛い失敗である。
一方、輸出管理規則によってアメリカ企業から中国の特定企業への製品やソフトウェアや技術の輸出を禁じるというのは東西冷戦の時に作られた輸出管理の枠組を用いている。
第2次世界大戦が終結した直後から、アメリカとソ連はヨーロッパを東西に、朝鮮半島を南北に分割して対峙し、東西冷戦が始まった。特に1949年にはソ連が初の核実験を成功させ、中国では共産党が内戦に勝利するなどソ連陣営の攻勢が強まり、危機感を高めたアメリカはソ連陣営に対して兵器や兵器の製造に役立つ機械や材料といった「戦略物資」を輸出しないようNATO(北大西洋条約機構)に加盟する西ヨーロッパ各国に求めた。各国の輸出規制の内容を揃える調整を行うための政府間の秘密組織としてココム(対共産圏輸出統制委員会)が1949年秋ごろに作られた。まだ占領下にあった日本もアメリカによって輸出を規制され、独立を回復するやココムの一員となった。
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