コラム

消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャッシュレス「護送船団」

2019年09月11日(水)16時00分
消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャッシュレス「護送船団」

経産省によるQRコードの「規格統一」はかえって普及の妨げになる Issei Kato- REUTERS

<消費税のポイント還元をエサに一気にキャッシュレス決済の普及を進めようという経産省主導の目論見が失敗する理由>

2019年10月1日から消費税が引き上げられるが、中小の小売店で、キャッシュレスの手段によって商品を買うと支払額の5%を還元してもらえる。この還元分は日本政府が負担することになっており、政府はそのために2800億円の予算を投じるという。

実に耳寄りな話で、私はクレジットカード、電子マネー、スマホ決済などキャッシュレスの支払手段を何種類も用意して待ち構えている。だが、中小の小売店ならどこでも還元が受けられるというわけではなくて、政府に申請して認可を受けた小売店でなくてはならない。経済産業省によれば、その申請数は消費税の引き上げまで1カ月を切った9月6日の時点でもまだ58万件だそうで、日本全体の中小小売店の4分の1程度らしい。

国はなぜ2800億円もかけるのか

お客を呼び込む絶好のチャンスなのに、なぜ小売店の動きが鈍いのだろうか。一つにはお客がキャッシュレス支払いをしたときに店側が決済手数料を負担しなければならないという問題があるようだ。クレジットカード支払いの場合、還元が行われる期間は手数料が上限3.25%までに抑えられるが、それでも小売店にとっては軽くない負担だ。ただ、ソフトバンク系のPayPayやLINE Payなどスマホ決済の方は時限付きながら決済手数料をゼロにするといっており、店側ではQRコードを店頭に置いておくだけでいい。つまり、店側は負担ゼロでキャッシュレス支払いを受けられるし、それによって新たな客が獲得できる可能性も高いのに、このままだとキャッシュレス支払いができる中小小売店は全体の4分の1程度にとどまりそうである。

そもそもなぜ経済産業省は巨額の国費を投じてまでキャッシュレス化にこんなに前のめりで取り組んでいるのだろうか。キャッシュレス化が実現すれば、消費者は外出の時に現金を持ち歩かなくてすむようになり、小売店はレジに1円玉から5000円札まで常に準備しておく手間が省けるし、計算と現金の残高が合わないことに悩まされなくてすむようになる。こうして経済全体としての効率性が高まるので2800億円の国費を投じてもそれを上回るメリットがある、とソロバンをはじいているのであろう。

ただそれ以上に、中国や韓国、スウェーデンやインドなどでキャッシュレス化が進んでいるのに、日本がいつのまにかキャッシュレス後進国になってしまったことに対する焦りに突き動かされているようである。日本は世界で初めて携帯電話にお金を入れる「おサイフケータイ」のサービスを始めるなど、世界のキャッシュレス化をリードしていたはずなのに、このままでは世界の「キャッシュレス文明」に取り残されてしまう、と経済産業省の報告書『キャッシュレス・ビジョン』は強い危機感を表明している。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

ニュース速報

ワールド

中国、ルビオ米上院議員らに制裁 ウイグル問題で報復

ビジネス

米消費者、失業時の再雇用や収入に不安=NY連銀6月

ワールド

米のコロナ感染再拡大、不十分な封鎖措置が要因=ファ

ワールド

カナダ・米、渡航禁止措置の今後の対応巡り協議継続=

MAGAZINE

特集:台湾の力量

2020-7・21号(7/14発売)

コロナ対策で世界に存在感を示し、中国相手に孤軍奮闘する原動力を探る

人気ランキング

  • 1

    「金正恩敗訴」で韓国の損害賠償攻勢が始まる?

  • 2

    中国・長江流域、豪雨で氾濫警報 三峡ダムは警戒水位3.5m超える

  • 3

    科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求める

  • 4

    中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊は…

  • 5

    生き残る自動車メーカーは4社だけ? 「ゴーン追放後…

  • 6

    24歳年上の富豪と結婚してメラニアが得たものと失っ…

  • 7

    中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで…

  • 8

    「香港国家安全法」に反対の立場を取ったトルドーに…

  • 9

    どこにも行かない台湾の「なんちゃってフライト」、…

  • 10

    ウイグル女性に避妊器具や不妊手術を強制──中国政府…

  • 1

    中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊はあり得るのか

  • 2

    「金正恩敗訴」で韓国の損害賠償攻勢が始まる?

  • 3

    国家安全法成立で香港民主化団体を脱退した「女神」周庭の別れの言葉

  • 4

    中国・長江流域、豪雨で氾濫警報 三峡ダムは警戒水位3…

  • 5

    科学者数百人「新型コロナは空気感染も」 WHOに対策求…

  • 6

    世界最大の中国「三峡ダム」に決壊の脅威? 集中豪…

  • 7

    中国・超大国への道、最大の障壁は「日本」──そこで…

  • 8

    孤立した湖や池に魚はどうやって移動する? ようや…

  • 9

    東京都、新型コロナウイルス新規感染107人を確認 小…

  • 10

    ポスト安倍レースで石破氏に勢い 二階幹事長が支持…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!