コラム

EVシフトの先に見える自動車産業の激変

2017年11月09日(木)13時51分

クルマ私有の効用

日本にもカーシェアは存在するが、現状ではレンタカーと大差なく、我々の生活を大きく変えるには至っていない。だが、もしクルマを貸し借りできる場所が徒歩200メートルぐらいの範囲で必ず見つかるようになり、かつ乗っていった先で返却すればよいということになれば利用する人はぐっと増える。少なくとも私はクルマを私有する生活をやめてカーシェアにすることを真剣に検討するだろう。

というのも、私は自分にとってクルマを持つコストが果たしてその効用に見合ったものなのか疑問に思っているからだ。ひょっとして日本には同じ感想を持っている人が少なくないかもしれないので、恥を忍んで私自身のクルマ生活について書こう。

私は近所の駐車スペースを借りるのに月2万円払っている。以前のクルマは10年乗ったから、その間に240万円の駐車場代を支払ったことになり、これはクルマ1.5台分に相当する。しかも、駐車代はこれにとどまらず、出かけた先でも支払う必要がある。もし東京の都心に朝クルマで行って、夕方まで仕事をしてクルマで帰ったら駐車代は優に5000円はかかる。だから私の通勤はもちろん電車だし、車に乗るのは駐車代の安い郊外へ向かう時だけで、都心に行くときは用事が短時間で済む場合以外にはまず使わない。そんなクルマ生活なので、わがクルマの年間走行距離はせいぜい5000キロ、平均時速20キロとすると、クルマが動いている時間は年に250時間。つまりわがクルマは1年の97%はどこかの駐車場で寝ているというわけだ。

ベルリンにおけるcar2goの利用料金(1時間あたり13.99ユーロ)をそのまま適用すれば、250時間使う代金は日本円にして45万円ほどである。私が1年間に払っている近所および外出先での駐車代、ガソリン代、保険料、クルマのメンテナンスサービス料などを積み上げるとそれぐらいになるので、自動車シェアを利用すれば、クルマ本体のコストがまるまる浮くことになる。シェア自動車なら出かけた先での駐車代を心配しなくてもよくなるので、今までよりもっとクルマを使うようになるかもしれない。

つまり、シェア自動車が使いたいときにいつでも手近なところに見つかるようになれば、シェア自動車を使うことでかなりおトクになる。ただ、そのような状態に持っていくのは、日本のカーシェアリングの現状を見る限り、道のりは極めて遠いと言わざるをえない。しかし、もし私のようにクルマを年間の97%寝かせているようなユーザーが一斉にクルマの私有を放棄するのとひきかえに、自分のスペースにシェア自動車を受け入れるならば、少なくとも東京ではそこらじゅうにシェア自動車が出現することになる。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EVポールスター、中国以外で生産加速 EU・中国の

ワールド

東南アジア4カ国からの太陽光パネルに米の関税発動要

ビジネス

午前の日経平均は反落、一時700円超安 前日の上げ

ワールド

トルコのロシア産ウラル原油輸入、3月は過去最高=L
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story