コラム

「ジョコビッチは愚か者だ」豪入国拒否問題で英名門紙がスター選手をバッサリ

2022年01月07日(金)20時24分

オーストラリアは外国人に入国前のワクチン接種を義務付けている。地元の公共放送ABCによると、大会に参加する選手や関係者計約3500人のうち26人がワクチン接種の免除を申請し、認められたのはジョコビッチ選手ら「ほんの一握り」に過ぎない。ビクトリア州の2つの独立委員会が名前や国籍、年齢を伏せた書類を医学的見地から審査したという。

同州のジャーラ・プルフォード・スポーツ相代行は「ジョコビッチ選手が免除を受けて全豪オープンへの出場が認められたのは彼がテニス界の大スターだからではない。国内の他のすべての人に適用されるルールに基づき資格があることを証明できたからだ。ビクトリア州の多くの人はこの結果を残念に思うだろうが、手続きは手続きだ」と説明していた。

開催地のメルボルンでは感染者が激増

全豪オープンが開催されるメルボルンでは昨年10月まで累計262日間にわたる世界最長のロックダウン(都市封鎖)を実施。ビクトリア州の12歳以上のワクチン接種率は9割を超える。しかしワクチンによる免疫を回避するオミクロン株の流行で1日当たりの新規感染者数は1千人台から一気に7万2千人超にまで激増し、死者も目立ち始めた。

一方、ジョコビッチ選手の弁護団は6日、強制送還の差し止めを求める訴えを裁判所に起こした。当のジョコビッチ選手は警察監視の下、メルボルンにある隔離ホテルに移送され、裁判所は10日以降に判断を示す見通しだ。収容者によるとホテルの環境は劣悪で、ジョコビッチ選手の家族は「セルビアへの攻撃だ」と怒りをあらわにしている。

詳細は今のところ不明だが、州政府はジョコビッチ選手がコロナ感染から完全に回復して免疫を獲得していると判断したのに対して、連邦政府は入国にはワクチン接種が不可欠との見解を大会主催者に事前に伝えていたにもかかわらず大会主催者が州政府への連絡を怠ったため、手違いが生じたとの報道もある。

オーストラリアでは総選挙を控え、モリソン首相率いるオーストラリア自由党は、野党・オーストラリア労働党にリードを許している。ジョコビッチ選手の接種免除を認めたビクトリア州政府はオーストラリア労働党が統治しており、モリソン首相が野党に対する攻撃材料をつくるためジョコビッチ選手をスケープゴートにしたとの見方もある。

国際オリンピック委員会(IOC)によると、北京冬季五輪では完全に予防接種を受けたすべてのアスリートと大会関係者も北京到着後、トレーニング、競技、業務のため大会の会場間を移動することだけが許される。未接種者は到着後、21日間隔離して感染の有無を確認する。正当に医学的な免除が認められるアスリートは例外として考慮される。

反ワクチン主義者の広告塔になったジョコビッチ選手

イギリスでは成人の20人に1人がワクチン接種を受けておらず、アメリカでも7人に1人が接種していないと答えている。サッカーのイングランドプレミアリーグでも少なくとも6人に1人のフットボーラーは予防接種を受けていない。ジョコビッチ選手は以前から接種義務化に反対していることから反ワクチン主義者の広告塔として祭り上げられてきた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story