コラム

中国の『隠れた手』にがんじがらめにされるドイツ メルケル首相は媚中派路線を転換できるのか

2020年07月28日(火)11時55分

『隠れた手』によると、ヘルムート・シュミット元首相(社会民主党)が15年に亡くなった時、中国中央電視台(CCTV)は「中国人民の古き友人」と功績を称えた。シュミット氏は1989年の天安門事件で中国を擁護する発言を繰り返し、事件後初めて中国を訪れたドイツの政治家だ。

中国の対ドイツ浸透工作は社会民主党のシュミット、シュレーダー両氏を手始めに、産業界にも「中国共産党支配や領土問題に口を挟まない限り、企業は自由に活動できる」と甘言を弄して入り込んでいく。浸透工作はドイツの外交官やシンクタンク、地方の隅々に及んでいる。

4年連続でドイツの最大貿易相手国になった中国

ドイツ連邦統計局は、アメリカは依然としてEUの最も重要な貿易相手国だが、2000年に比較するとアメリカとの貿易の割合は全体の18%と大幅に減少した。これに対して中国との貿易は5.5%から15.8%と3倍近くに膨れ上がった。日本との貿易も7.5%から3.5%に減ったと指摘する。

ドイツにとって中国は4年連続で最大の貿易相手国になった。

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ドイツ自動車産業協会によると、乗用車の総輸出台数は昨年348万7321台。輸出先はEUがトップで133万9545台。次にイギリス59万2566台、アメリカ41万7525台、中国26万7537台と続く。

中国や香港で販売されたドイツの高級車は昨年、フォルクスワーゲン(VW)が316万3200台、アウディが69万83台、BMWが72万3680台、メルセデス・ベンツ69万3443台、ポルシェ8万6752台。ドイツの自動車産業、いやドイツ経済はもはや中国なしでは成り立たない。

中国専門のオンラインマガジン「チャイナファイル」によると、イスラム教徒のウイグル族ら約100万人を強制収容所で再教育していると国際的な非難が沸き起こっている新疆ウイグル自治区にVWやシーメンス、BASFなど多くのドイツ企業が進出している。

VWは「新疆ウイグル自治区にあるウルムチ工場で人権侵害が起きている兆候はない。ウイグル族の強制労働がVWのサプライチェーンに取り込まれていることを示す証拠は何一つない」と人権問題に目を閉ざす。

ドイツのメルカトル中国研究センター(MERICS)によると、欧州での中国の直接投資は2000~19年にかけ、累積でイギリスが最も多く503億ユーロ、ドイツが227億ユーロだ。英独の市場が他の国に比べて開かれており、中国資本が自由にアクセスできたからだ。

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中国がテクノロジー戦争に勝つという打算

ドイツ産業界にも中国に依存しすぎたことに対する反省や警戒感は強まっている。中国に進出するドイツ企業約5500社は現地で合弁会社の設立を求められ、技術移転を強制される。中国企業はドイツの市場には自由に参入できるのに、ドイツ企業の中国市場参入は制限されている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com

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