コラム

中国の『隠れた手』にがんじがらめにされるドイツ メルケル首相は媚中派路線を転換できるのか

2020年07月28日(火)11時55分
中国の『隠れた手』にがんじがらめにされるドイツ メルケル首相は媚中派路線を転換できるのか

中国との関係悪化は経済的に避けたいメルケル首相(7月21日) John Thys/REUTERS

<「人権」から「経済優先」に舵を切ったメルケル首相>

[ロンドン発]香港国家安全維持法や次期通信規格5G参入を巡り、米英を軸にする"アングロサクソン連合"が中国との対決姿勢を強める中、第三極となる欧州連合(EU)の大黒柱、アンゲラ・メルケル独首相の対中姿勢への懸念が大きく膨らんでいる。

EUの輪番制議長国になったメルケル首相は、中国との「相互の敬意」と「信頼の関係」に基づき「われわれは香港問題について中国と対話と話し合いを続ける」との考えを強調した。これに対し、英誌エコノミストは「メルケル首相の対中ソフト姿勢に国内で物議」と批判的に報じた。

旧共産圏・東ドイツ出身のメルケル首相は2007年、「経済優先」の前例を破って独首相として初めてチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談した。これが中国の逆鱗に触れ、対中輸出は激減。媚中派のゲアハルト・シュレーダー前首相(社会民主党)に厳しく批判された。

以来、「人権派」のメルケル首相は「経済優先」路線に一気に逆戻りした。11年には中国との共同閣議を初開催し、首相としての訪中回数はシュレーダー氏の倍に当たる12回に達した。おかげでメルケル首相の15年間で対中輸出は5倍以上の1100億ユーロに膨れ上がった。

香港問題で、最後の香港総督を務めたクリストファー・パッテン英オックスフォード大学名誉総長が主導した共同の抗議声明には43カ国の議員ら904人の署名が寄せられたが、ドイツ連邦議会からは14人だけ。内訳は野党の自由民主党や緑の党がほとんどで、大連立を組むCDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟)は4人、社会民主党はゼロだった。

新しい世界を形作る中国の『隠れた手』

メルケル首相は中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の5G参入問題についても慎重に結論を秋に先送りしている。しかし今年1月に限定容認を決定したイギリスが香港問題を受け、2027年までに全面排除する方針に転換したことで、アメリカの圧力をまともに受け始めた。

メルケル首相は対中政策を転換するのか。『隠れた手 いかに中国共産党が新しい世界を形作るかを暴く』の共同著者、マハイケ・オールベルク氏は筆者にこう語る。

「ドイツの対中政策がソフトなのは、独経済の中でも特に自動車と化学と中国の関係が深く、政治に対する産業界のロビー活動も活発に行われ、強い影響力をふるっているからだ。メルケル首相は、EUが緩い対中政策を強化する時の障害になる恐れがある」

オールベルク氏は米ジャーマン・マーシャル財団で上級研究員を務める独中関係のエキスパートだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com

ニュース速報

ワールド

英、12月初めに再ロックダウン終了 地域ごとの制限

ビジネス

米年末商戦、最大5.2%増加見通し コロナ禍でも購

ワールド

英アストラゼネカのワクチン、有効性90%にも 深刻

ビジネス

中国のネット企業独禁ルール、「必要」な措置=アリバ

MAGAZINE

特集:バイデンのアメリカ

2020-11・24号(11/17発売)

就任100日でバイデン民主党新政権の内政・外交・経済そしてコロナ対策はこう動く

人気ランキング

  • 1

    女性陸上アスリート赤外線盗撮の卑劣手口 肌露出多めのウェア着ている選手が悪いのか?

  • 2

    世界のワクチン開発競争に日本が「負けた」理由

  • 3

    米爆撃機2機が中国の防空識別圏に異例の進入

  • 4

    オーストラリアが打ち砕く、文在寅に残された「たっ…

  • 5

    バイデンは「親中」ではないが「親日」でもない──日…

  • 6

    【オバマ回顧録】鳩山元首相への手厳しい批判と、天…

  • 7

    新型コロナは2019年9月にはイタリアに広がっていた──…

  • 8

    やはり、脳と宇宙の構造は似ている......最新研究

  • 9

    大統領選の「トランプ爆弾」不発に民主党はがっかり…

  • 10

    中国とロシアがバイデンを祝いたくない理由

  • 1

    アメリカ大統領選挙、郵政公社がペンシルベニア州集配センターで1700通の投票用紙発見

  • 2

    半月形の頭部を持つヘビ? 切断しても再生し、両方生き続ける生物が米国で話題に

  • 3

    アメリカを震撼させるオオスズメバチ、初めての駆除方法はこれ

  • 4

    アメリカ大統領選挙、ペンシルベニア州裁判所が郵便投…

  • 5

    女性陸上アスリート赤外線盗撮の卑劣手口 肌露出多…

  • 6

    世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由

  • 7

    事実上、大統領・上院多数・下院多数が民主党になる…

  • 8

    世界のワクチン開発競争に日本が「負けた」理由

  • 9

    米爆撃機2機が中国の防空識別圏に異例の進入

  • 10

    トランプでもトランプに投票した7000万人でもない、…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!