コラム

東証「改革」は早くも骨抜きに...最大の問題は「市場関係者」の危機感のなさだ

2022年03月30日(水)20時08分
東京証券取引

WINHORSE/ISTOCK

<株式市場の健全性は、国の経済の安定成長と密接に関係している。日本は未成熟な市場をこのまま放置し、低成長に向かうつもりなのか>

あまり知られていないかもしれないが、株式市場を健全に運営することは経済成長の大きな原動力となる。その点において日本の市場環境はとても褒められたものではない。東京証券取引所はこうした事態から脱却するため、市場改革を試みているが、早くも骨抜きになりそうな状況だ。

株式市場は企業の資金調達の場であり、不安定な市場に上場している企業は、それだけで財務戦略上、不利になる。透明性が低く、リスクが高い市場は優良な機関投資家が敬遠するので、投機的・短期的な投資家ばかりとなり、企業の資金調達環境はさらに悪化していく。

株式市場の健全性はその国の安定成長と密接に関係しており、まさに経済のリトマス試験紙といってよい。日本の証券市場は、世界基準から見ると未成熟で荒っぽい市場に分類されており、この評価はそのまま日本の低成長に結び付く。

過去30年、日本株はほとんど上昇しておらず、この事実一つ取っても各国の投資家が日本株を敬遠する理由になってしまう。株価が好調に推移したとされるアベノミクス以降についても、数字で比較すると結果は一目瞭然である。

日本株は高リスク・低リターン

過去10年間のアメリカ株(S&P500)の平均年間リターンは約13%、リスク(標準偏差)を計算すると約13%になる。

一方、日本株(東証株価指数〔TOPIX〕)の平均リターンは約10%しかなく、リスクは約16%もある。株価が突出して好調だった時期に限定しても日本株のリターンはアメリカより低く、リスクは高い。これらの数字から投資の効率性を評価するシャープレシオを計算すると、日本株はもはや投資適格ギリギリの水準になってしまう。

市場の基準が緩いこともあり、日本の上場企業には時価総額が極めて小さいという特徴が見られる。東証上場企業(1部と2部)の1社当たりの時価総額は約2700億円と、ニューヨーク証券取引所の5分の1程度の水準しかなく、日本で大手企業といってもグローバルでは中堅企業にすぎないというのが現実である。外部に対して説明責任を負う機関投資家の運用責任者にとって、この時価総額では日本企業を投資対象から除外せざるを得ず、実際、そうした動きが顕著となっている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相会議、ウクライナ問題協議へ ボレル氏「EU

ワールド

名門ケネディ家の多数がバイデン氏支持表明へ、無所属

ビジネス

中国人民銀には追加策の余地、弱い信用需要に対処必要

ビジネス

テスラ、ドイツで派遣社員300人の契約終了 再雇用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 6

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 7

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 8

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story