コラム

日産を見捨て、GMを選んだホンダが「正しい」理由

2020年10月07日(水)12時22分

Chaiwat Subprasom-REUTERS

<政府が主導した日産との経営統合を拒否したとされるホンダが見据える自動車業界の未来像とは>

ホンダが自前主義から決別し、米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携を決断した。ホンダをめぐっては、経済産業省が経営危機に陥った日産を救済するため同社に経営統合を要請したと一部で報じられた。ホンダ側は拒否したとされるが、GMとの本格提携はこの問題に対する同社の最終回答と解釈してよいだろう。

本田技研工業が9月3日に発表したGMとの戦略的な提携は、かなり本格的な内容で、ガソリン車および電気自動車(EV)について、プラットフォームの共有化や部品の共同購入、さらにはサービス事業での協業なども検討されている。

資本提携は行わないとしているが、ホンダの主戦場は北米市場であり、製品構成の点でもGMとは相互補完的である。今後の主力製品をGMと共同開発していくという現実を考えた場合、将来的な資本提携も視野に入っていると考えたほうが自然だ。

自動車業界では100年に1度といわれるパラダイム・シフトが発生しており、近い将来、多くがEV化されるのはほぼ確実といわれる。EVは基本的にコモディティ化された部品で構成されるので、EV化が進むと自動車の価格が急落するとともに、産業構造そのものが変化すると予想されている。

メーカーは薄利多売を余儀なくされ、最終的にはシェア上位の会社しか生き残れないというのが業界の一致した見方といってよい。中堅メーカーにすぎないホンダにとって、規模のメリットが追求できないことは死活問題となりつつある。

過去にも国主導の業界再編に反発

規模が小さいという問題は、ルノーとの経営統合が事実上、頓挫した日産にとっても同じで、業績悪化が著しい同社については経済産業省が水面下で救済に動いていたとされる。だが、ホンダが日産と経営統合した場合、共倒れになるリスクが高く、ホンダにとっては日産との統合だけは何としても避けたかったに違いない。

実は同省がホンダの経営に介入したのはこれが2度目である。1960年代に同省の前身である旧通産省は、日本の技術力が低いことを理由に、ホンダの四輪事業進出を阻止しようと試みた。だが創業者の本田宗一郎氏が猛反発し、同省の意向を無視して四輪事業進出を強行したという過去がある。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

欧州インフレの軟着陸、可能だが確実ではない=IMF

ワールド

中国はロシア防衛産業を支援、安全保障の脅威あおる=

ビジネス

ユーロ圏インフレ率は鈍化の公算、リスクは両面的=E

ビジネス

中国への海外直接投資、第1四半期は前年比26.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story