コラム

安倍3選後の日本の針路、長期政権は必ず腐敗する

2018年08月04日(土)16時00分

秋に自民党総裁選を控えている安倍首相の胸中は? Issei Kato-REUTERS

<民主党政権への幻滅から生まれた異例の長期政権――官邸に群がる側近や官僚、トランプ米政権をどうさばくのか>

9月に自民党総裁選があり、安倍晋三首相は多分3選される。任期は3年。来年夏の参院選で大敗するなどハプニングがなければ、12年12月の就任から21年9月まで合計約9年。大叔父の佐藤栄作元首相の8年弱を抜き、日本では超長期政権となる。

この長期政権を支えるものは、あまりにひどかった民主党政権や政権交代への幻滅、拒否反応。安倍首相個人に対する期待はさほどない。国民は、政府が適度に金融を緩めて景気を適度に良くしてくれればそれでいい、後はとにかく静かにやってくれればいい、と思っている。

長期政権は必ず腐敗し、ほぼ必ず勢いを失う。既に18年間政権の座にあるロシアのプーチン大統領も、社会にみなぎる閉塞感をどうにもできずにいる。日本でもモリカケ問題や「カジノ法」採択に見られるように、権力者に群がる有象無象が次々に自分の野望を実現しようとしては、ボロを出す。

発足したばかりの安倍政権は清新だった。日本を立て直すという気概があったし、政権を失ってはならないという緊張感と自制心もあった。外交は中国と韓国が抜けた片肺飛行だったが、オバマ米前政権と何とか関係を維持し、それなりに日本を世界に示すことができた。しかし今や安倍政権は、日本の立て直しよりも政権存続を自己目的として動いている気味がある。

「地産地消」がより重要に

3選した場合は、安倍首相自ら何か斬新な政策課題を打ち出さないといけない。そうしなければ、官僚や首相側近が小手先の「新政策」で国民の目をくらまし、有象無象が積み残しの利権案件を実現するうちに、せっかくの長期政権も終わってしまうだろう。

幸か不幸か、日本内外の状況は様変わりしている。これまでの常識はもう古くなった。トランプ米大統領が外交から理念を追い出し、大衆の素朴な直観に基づいた外交を展開しつつある。北朝鮮やロシアに対しても、首脳外交で握手をすれば敵意は見せなくなるので、「敵が攻めてくる」と叫んでは大げさな同盟体制を組む必要もなくなる。

世界では、首脳外交を前面に出し、機に応じて提携相手を敏捷に変えていくスタイルが目立つようになるだろう。日本外交がアメリカだけを見ていればいい時代は終わった。

経済ではトランプ関税によって、「中国でモノを安く作って欧米に輸出する」モデルが過去のものになりつつある。これからは「地産地消」がもっと重要になっていくだろう。

そのためには日本企業も、世界のどこででも自社ブランドの製品を安価に製造して地元に提供できる体制をつくっていかねばならない。

日本国内では、アベノミクスの賞味期限が過ぎてしまった。トランプがドル高を批判したこともあり、これから円高基調になれば、「消費者物価2%増」という目標達成はほぼ不可能となる。そうなれば、アベノミクスも目先を変えていかなければなるまい。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story