コラム

中国に「無関心で甘い」でいられる時代は終わった

2020年08月04日(火)12時20分
中国に「無関心で甘い」でいられる時代は終わった

駐英中国大使の劉はウイグル弾圧を平然と否定(写真は2019年) SIMON DAWSON-REUTERS

<より近くにより脅威な国=ロシアが存在するイギリスは、これまで中国に批判的でもなければそれほど関心もなかったが、コロナと香港のダブルショックで状況は変わりつつある>

通称「コミカル・アリ」は、イギリスではちょっとした伝説の人物だ。2003年のイラク戦争時のイラク情報相で、首都バグダッドでの記者会見の背後で米軍の戦車が進軍する音が遠く響くさなかでも、イラクが敵を蹴散らしている、と強弁を続けた。

イギリスで最近、彼のことが思い出されたのは、BBCの政治番組に出演した劉暁明(リウ・シアオミン)駐英中国大使の態度があまりに不条理だったからだ。新疆ウイグル自治区でウイグル人が不当に扱われ、検挙される証拠映像を見せられた彼は、平然と「何のことか分からない」と言ってのけ、「いわゆる欧米の諜報機関」の仕立てた「冤罪」だとはねつけた。続いて彼は、新疆ウイグル自治区は中国屈指の美しい場所であると説明し、強制収容所など存在せず、不妊手術を強制する政策などないし、中国はいかなる少数民族も差別していないと断言した。

視聴者にとっては、自由社会と抑圧的体制との大きな違いを、めったにないほどまざまざと見せつけられた瞬間だった。僕たちの政府だって、口車に乗せたり、軽視したり、誇張したり、ごまかしたりすることはあるかもしれないが、誰の目にも明らかなことをただ否定することなどあり得ない。正常な民主主義国家では、公人は結局のところ、民衆の信頼なくしては成り立たないのだ。アサド大統領のシリアやプーチン大統領のロシア、そして共産党の中国など抑圧的国家においては、公人は、どんなに信憑性がないものだとしても上の方針に従わざるを得ない。

イギリスの対中政策は今、転換の時を迎えている。英政府はイギリスでの5G参入を部分的に容認していた中国の通信大手、華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)を排除することを決定した。香港との犯罪人引き渡し条約も停止した。「正義」が共産党政権のさじ加減で決定される中国本土に身柄が移される可能性を考慮してのことだ。中国の人権侵害に、マグニツキー法(重大事件に関与した個人や組織のビザ停止や資産凍結を可能にする法律)を適用した制裁も発動されるかもしれない。

キャメロン英首相(当時)が習近平(シー・チンピン)国家主席を連れ出してなじみのパブに行き、フィッシュ・アンド・チップスとビールでもてなした2015年から比べれば、かなりの方針転換だ。

もっと懸念すべき国が近くに

ほかにもイギリスが奇妙なほど中国寄りだった例は、つい昨年末に、アーセナルのサッカー選手メスト・エジルがウイグル人弾圧への非難をSNSに投稿したところ、アーセナルがクラブとしては関与していないと発表したことだ。アーセナルはただ黙っていることもできたのに、人権侵害などという些細なことで中国市場へのアクセスを損なっては大変、とわざわざ立場を表明したらしい。

【関連記事】イギリスの香港市民受け入れはブレグジット効果
【関連記事】エジルのウイグル弾圧批判が浮き彫りにした、中国とプレミアリーグの関係

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。アドレスはjhbqd702@yahoo.co.jp

ニュース速報

ワールド

カナダで新型コロナ再拡大、ケベック州は飲食店の営業

ワールド

フィリピン、首都圏などの新型コロナ予防のための移動

ビジネス

寄り付きの日経平均は反落、配当落ち除くと実質プラス

ワールド

米コロナ対策チームメンバー、大統領に不正確情報=フ

MAGAZINE

特集:感染症 vs 国家

2020-10・ 6号(9/29発売)

新型コロナウイルスに最も正しく対応した国は? 各国の感染拡大防止策を徹底査定する

人気ランキング

  • 1

    韓国ネット民、旭日旗めぐりなぜかフィリピンと対立し大炎上に

  • 2

    北朝鮮の韓国乗組員射殺で「終戦宣言を」の文在寅に逆風

  • 3

    タイ環境相、国立公園に捨てられたゴミを「持ち主に送り返す」対策で対抗

  • 4

    安倍政権が推進した「オールジャパン鉄道輸出」の悲惨…

  • 5

    中国漁船団は世界支配の先兵

  • 6

    トランプはなぜ懲りずに兵士の侮辱を繰り返すのか(…

  • 7

    中国軍の侵攻で台湾軍は崩壊する──見せ掛けの強硬姿…

  • 8

    日本人のインスタ好きの背景に「英語が苦手な事実」…

  • 9

    中国の台湾侵攻に備える米軍の「台湾駐屯」は賢明か 

  • 10

    南北統一をめぐる韓国人の微妙な本音「統一は必要で…

  • 1

    中国人民解放軍、グアムの米空軍基地標的とみられる模擬攻撃の動画公開

  • 2

    日本がついに動く実物大のガンダムを建造、ファンに動画が拡散

  • 3

    中国軍の侵攻で台湾軍は崩壊する──見せ掛けの強硬姿勢と内部腐敗の実態

  • 4

    尖閣問題への米軍介入で中国軍との戦闘は不可避──仮…

  • 5

    中国の台湾侵攻に備える米軍の「台湾駐屯」は賢明か 

  • 6

    核武装しても不安......金正恩が日本の「敵基地攻撃…

  • 7

    美貌の女性解説員を破滅させた、金正恩「拷問部隊」…

  • 8

    どこが人権国家? オーストラリア政府がコロナ禍で…

  • 9

    なぜ日本は「昭和」のままなのか 遅すぎた菅義偉首…

  • 10

    台湾有事を想定した動画を中国軍が公開

  • 1

    安倍首相の辞任で分かった、人間に優しくない国ニッポン

  • 2

    中国人民解放軍、グアムの米空軍基地標的とみられる模擬攻撃の動画公開

  • 3

    【動画】タランチュラが鳥を頭から食べる衝撃映像とメカニズム

  • 4

    反日デモへつながった尖閣沖事件から10年 「特攻漁船…

  • 5

    日本がついに動く実物大のガンダムを建造、ファンに…

  • 6

    中国軍の侵攻で台湾軍は崩壊する──見せ掛けの強硬姿…

  • 7

    米中新冷戦でアメリカに勝ち目はない

  • 8

    尖閣問題への米軍介入で中国軍との戦闘は不可避──仮…

  • 9

    アラスカ漁船がロシア艦隊と鉢合わせ、米軍機がロシ…

  • 10

    太陽の黒点のクローズアップ 最新高解像度画像が公…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!