コラム

イギリス警察は人種差別主義? データはBLMの主張と矛盾する

2020年06月27日(土)18時50分
イギリス警察は人種差別主義? データはBLMの主張と矛盾する

警察による構造的な黒人差別がイギリスにも存在するという主張は当たらない? Jason Cairnduff-REUTERS

<ブラック・ライブズ・マター抗議運動が主張する「イギリス警察でもアメリカと同様の人種差別がまかり通っている」の真実を冷静に調べてみると......>

アメリカで黒人男性ジョージ・フロイドが白人警官に殺害されたことは、BLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)抗議運動の引き金を引いた。「息ができない」はスローガンとなり、フロイドが受けた扱いはよくある事例の一端だと叫ばれた。黒人男性が警官の手で殺される、あるいは攻撃的な取り締まりの対象にされる、といういつものパターンだ。

これがイギリスに当てはまるだろうか? 2019年までの10年間で、イギリスとウェールズでは(スコットランドと北アイルランドの警察は別組織のため除く)163人が警官の拘束により命を落とした。そのうち黒人は13人で、10人が他のマイノリティー、そして140人が白人だった。つまり86%が白人で、これはイギリス全体の白人人口の比率と一致する。だから、14%のBAME(黒人、アジア系、その他マイノリティー人種)被害者は、全体の人口比率の14%を反映しているのだ。

「人種差別主義の警察」という言説を許す背景には、統計のとある1つの側面がある。黒人は他の人種より逮捕される割合が高い、というものだ。だから黒人は人種差別的な警察から不公正に狙われているか、あるいはより多くの犯罪を犯しているか、あるいはその2つの両方か、ということになる。逮捕率の高さは単純に人種差別のせいだと主張する人にとって都合が悪いのは、アジア系の逮捕率が黒人よりも白人よりもずっと低いという事実だ。だから同じ論理で言えば、警察は「アジア系」をえり好みして優遇しているということになるはずだ(ちなみに、アジア系の定義はとても広いから多くの「アジア系」イギリス人はいら立っている。中国系やインド系は平均的に白人イギリス人より高収入で、例を挙げればパキスタン系やフィリピン系移民とは文化的にかなり遠い)。

拘束された黒人が、不均衡なほど高い割合で死亡しているということはない。実際のところ、白人の割合のほうが不釣り合いに高い。白人は警察拘束中に黒人より25%高い確率で死亡している。参照できる最新の統計では、警察の拘束で亡くなった16人のうち15人が白人だった。

もちろん、こうした数字を目にした人でも警官による殺害を憂慮する気持ちは変わらないだろうし、この一見したところ「冷酷な」分析に気分を害するかもしれない。データの背後には生身の人間163人の死があったことは忘れるべきではない。でも、この163件は警察と日々接触している人々のごく一部であることや、イギリスでは警察の拘束によって死亡するケースがアメリカに比べてはるかに少ないこと、それにこうした数字は「構造的な人種差別」を示しているわけではない、ということを心に留めておくのは重要だろう。

イギリスの警察は通常、銃を携帯していない。携行を許されるのは、特殊な場合で明確なケース、たとえば容疑者が確実に武装していて命の危険がある場合などに限られる。イギリスで警察の銃撃による死者は、2019年4月までの1年間に3件だった(それまでの15年間では40人だった)。殺傷力のある武器は最後の手段として使われる。ちなみに、アメリカで2019年に警察の銃撃で死亡した1000人余りのうち、235人が黒人だった。正確に言えば、アメリカの警察の銃撃による死亡件数は1004人で、つまり僕がいま「四捨五入」して切り捨てた数字だけでもイギリスの年間の件数を上回ることになる。この数字の大きな隔たりは、じっくり考える必要があるだろう。

職務質問で守られている「黒人の命」もある

カテゴリー分けすると、警察との「接触」に伴う死亡、というより広い区分がある。これにはさまざまな死因のものが含まれるから、当然この件数は多くなる。警察側に責任がないケースも含まれているのは明確だ。こうしたデータは独立機関によって、警察の過失がないか、人種的偏りや改善点がないか、などを細部まで注意を払ってチェック・集計されている(言いかえれば、このデータが存在すること自体、警察の業務がきちんと精査されていることの証拠でもある)。

昨年のデータによれば、警察との接触後に死亡したのは276人。63人は自殺とみられ、そのうち53人は精神的な問題を抱えていた。42人は交通事故で、うち30人は警察の追跡から逃走したことと関係している。前述した16人の拘束中の死亡者のうち、10人は精神疾患で、13人は酒やドラッグの問題を抱えていた(彼らの多くが精神疾患に加えて彼らの言うところの「自己治療」である薬物乱用をするという危険な組み合わせに陥っている)。276人のうち、逮捕時に武力を行使されたのはたった14人だ(警察だけでなく居合わせた一般人による拘束も含まれる)。

<関連記事:BLMの指導者「アメリカが我々の要求に応じないなら現在のシステムを焼き払う」の衝撃

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。アドレスはjhbqd702@yahoo.co.jp

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