コラム

「収入圧縮」で知らぬ間に進むイギリスの貧困化

2018年04月06日(金)16時00分

クレジットカードで延々と債務を積み増す中流層

言い換えれば、変動はあるものの全体的なパターンは明らか。この10年で賃金はインフレ率ほどのペースで増加していないということだ。それはスローモーションの破綻のようなもの。人々は突如、大規模崩壊に直面するわけではなく、長い時間をかけて少しずつ貧しくなっている。だが結果は現実によく現れている。

社会の最下層の人々の間では「ペイデイ・ローン(高金利融資)」の話がよく出てくる。給料日前にカネが尽きてしまった労働者向けに、企業が1日から1週間かそこらの短期で貸し出す極めて高金利のローンだ。もちろん、こんな借り入れには罠がある。給料日になったら、借金を返済して利子も払わなければならないのだから、結局は次の給料日よりも前、それも前月のときよりもっと早くに、また金を借りないといけないはめになる可能性が高い。

中流階級の人々は、収入と支出の差を埋めるためによりいっそうクレジットカードに頼る傾向がある。カードで債務を積み増し、月々の「最低返済額」だけを支払う方法で、これを続けると債務の元金が増えていく。実際の債務の返済が先延ばしされ続けるため、これはかつて「ネバー・ネバー」と呼ばれていたやり方だ。だが今や借金はごく普通のことと思われるようになったから、こうしたやり方について、やや批判的な意味合いのこの言葉を使う人はもはや誰もいない。

イギリスでは、お金について話すこと(特に自分の収入について話すこと)はある種のタブーになっているため、こうした状況は表面化しにくい。とはいえ、たとえば中流階級の人々が今では格安スーパーのアルディでワインを購入したりするのはよく見られる光景だ。

先日、僕が中価格帯のスーパー、セインズベリーに行ったときも、店側が顧客を取り戻すために、数あるお買い得商品を以前よりもさらに値引きしていることに気付いた。僕がそのことに気付いたのは、僕が今では日常的にその価格帯の商品を購入しているからだということに気付いたからで、そんなことは5年前ならしていなかっただろう。そう、僕自身も「収入圧縮」の真っただ中にいるのだ!

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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