コラム

超格差を生む「ギグ・エコノミー」残酷物語――FB共同創業者が救済策を提案

2018年03月23日(金)14時10分

シリコンバレーの米クラウドソーシング大手「アップワーク」と、35万人のフリーランサーが加入する米NPO「フリーランサーズ・ユニオン」(ニューヨーク市)が昨秋発表した調査結果によると、2014年に5300万人だったフリーランサーは2017年には5730万人と、8.1%増を記録。同期間における米労働人口の成長率2.6%の3倍を上回るペースだ。ミレニアル世代(18~34歳)の半数近くが、何らかの形でフリーの仕事をしている。2017年に、働く米国人の36%を占めていたフリーランサーは、2027年には50%を超える見込みだ。

アプリやクラウドで仕事を受け、時間帯も仕事量も選べる21世紀の働き方――。一見、クールに聞こえるが、ヒューズ氏は、近著『Fair Shot: Rethinking Inequality and How We Earn』(『公平な機会――格差と稼ぎ方の再考』仮題)のなかで、こうしたオルタナティブ・ワークの増加が米国の雇用を壊し、格差拡大を招いていると主張する。「Fair Shot(公平な機会)」は、オバマ前大統領が2012年の一般教書演説で使った言葉だ。

最低賃金も「社保」もなし

米人材派遣会社クリエイティブ・グループが3月15日に発表した調査結果によれば、プロジェクトベースで専門のフリーランサーを雇うと答えた企業幹部(広告・マーケティング担当)は58%にのぼるという。高額な医療保険費や401k(確定拠出年金)、病休、有給休暇、ボーナスも必要ないフリーランサーは企業にとっては便利だが、働く側からすれば、セーフティーネットがゼロだ。

おまけに、新興ギグ・エコノミー企業の相次ぐ市場参入による競争激化、価格破壊で、安いギャラに甘んじざるを得ないとなれば、「超格差」が生じるのも当然である。仕事の供給や見通しも不安定だ。経費分などを差し引くと、時給換算で最低賃金にすら満たないケースも多い。

たとえば、従業員の場合、ニューヨーク市の法定最低賃金は、ファストフード店13.5ドル、ファストフードを除く、社員数11人以上の会社なら13ドルであり、今年の大みそかには、いずれの最低賃金も15ドルに上がる。

加速する自治体の最低賃金引き上げの動きや米労働市場のひっ迫(売り手市場)、キャッシュ以外の保障がないという点を考えると、ギグ・エコノミー労働者の報酬は低すぎる場合が多い。企業側は「自由な働き方」をアピールするが、正業や他の収入がないかぎり、休みなく働かなければ食べていけず、それでも、毎月、何百ドルにもなる医療保険代などをまかなえる安定した収入を得るのは難しい。

現役・元従業員による匿名の企業情報を提供する米就職情報サイト「グラスドア」によれば、たとえば、サンフランシスコの買い物・宅配代行スタートアップ大手、ポストメーツで働くクーリエ(配達員)の時給は10.34~11.85ドル。職種は明記されていないが、同ウェブサイトに「個人請負」として報酬を書き込んだ人たちの平均時給は9.72ドルだ。

プロフィール

肥田 美佐子

(ひだ みさこ)ニューヨーク在住ジャーナリスト。東京都出身。大学卒業後、『ニューズウィーク日本版』編集などを経て、単身渡米。米メディア系企業などに勤務後、2006年独立。米経済・雇用問題や米大統領選などを取材。ジョセフ・スティグリッツ、アルビン・ロスなどのノーベル賞受賞経済学者、「破壊的イノベーション」論のクレイトン・クリステンセン、ベストセラー作家のマルコム・グラッドウェルやマイケル・ルイス、ビリオネアAI起業家のトーマス・M・シーベル、ジム・オニール元ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長など、米(欧)識者への取材多数。元『ウォール・ストリート・ジャーナル日本版』コラムニスト。『週刊東洋経済』『経済界』に連載中。『フォーブスジャパン』などにも寄稿。(mailto:info@misakohida.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中東情勢深く懸念、エスカレーションにつながる行動強

ワールド

ウクライナ中部にロシアミサイル攻撃、8人死亡 重要

ワールド

パキスタンで日本人乗った車に自爆攻撃、全員無事 警

ビジネス

英小売売上高、3月は前月比横ばい インフレ鈍化でも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story